星野リゾートという経営。

星野リゾートという経営。

星野リゾートという経営。




先日、昨今の青森ブームの煽りもあり、ふと思い立って青森まで旅行に行ってきました。
宿泊したのは古牧温泉の「青森屋」というところ。
宿泊する寸前まで知らなかったのですが、実はこの「青森屋」はかの有名な「星野リゾート」が経営する旅館でした。

「星野リゾート」とは、経営不振に陥ったリゾート施設や旅館の事業再生を請け負う企業。
最近テレビ番組でも特集されているのでご存知の方も多いと思いますが、星野リゾートは不景気で客足が途絶えてしまった旅館等を買い取り、再びお客さんが沢山来るような宿に作り替える改革を数々の宿泊施設に対して行っています。
特筆すべきは、閑古鳥が鳴いていた宿も星野リゾートの手にかかると多くのリピーターに支持される宿に生まれ変わるということ。

というわけで、たまたまそんな事業再生の現場を自分の目で見る機会があったので、それをレポートしてみようと思います。


まず最初に、この青森屋についての個人的な感想から。
正直言って「また行きたい」です。僕もまんまとリピーター予備軍の一人になってしまいました。
なぜか。
その理由は、一言で言えば「コストパフォーマンスの高さ」です。

ここでの宿泊体験は、確かに他の高級ホテルや旅館と比べると、決して「最高のレベル」とは言えません。
同グループの「星のや」を始めとする1泊2万円3万円以上のクラスにはハード面でもソフト面でも及ばないというのが正直な感想です。
しかし、祝前日にも関わらず新幹線往復運賃込み、そして1泊2食付きでトータル2万円程度。すごい安い。
この安さ故にコストパフォーマンスは確実に僕が経験した中でもトップ3に入ります。

ちなみに東京ー八戸間の新幹線運賃は特急料金込みで往復30,700円。単純計算で、青森屋の宿泊料は「マイナス」です。
今回はJRのツアーで行ったのですが、ツアーによるJR側の運賃割引が50%だったとしても宿泊費は1泊2食付で5,000円。渋谷のラブホテルに泊まるより安い。
にもかかわらずなかなか素晴らしい宿泊体験が得られたという点が、このコストパフォーマンスの高さです。

そもそも事業再生とは。
単純に考えると、事業再生とは「売上アップ」と「コストダウン」による「利益創出」です。
「売上」は「客数」×「客単価」に分解できるため、その両方を向上させることが売上アップに繋がります。
しかし、往々にして「客数」と「客単価」はトレードオフになります。従ってどちらに重きを置くかが重要。
また売上アップ施策の傍ら、同時にコストダウンを図らないと利益創出は困難です。

青森屋の売上アップ策は、基本的には客数重視でした。
青森屋はもともと「古牧グランドホテル」という所謂「地方の重厚長大ホテル」でした。
客室数は全部で1,000室を超えるそうです。
青森屋として再スタートした段階で客室の一部を閉鎖したとはいえ、現時点でも300室程度が稼動しているそうです。
この条件で客室の高い稼働率を維持するには、客単価を下げなければなりません。
従って実行すべき施策は「低い客単価を実現するためのコストダウン」と「低い客単価に比して高いサービスの提供」の2点となります。
青森屋では、この2点を同時に実現する施策が数多く実施されていました。

これらの施策の一例について、僕が気づいたものを箇条書きでご紹介します。

  • フロントが超デカい、そしてキレイ。この時点で「価格の割に全然いい宿じゃん!」という第一印象。
  • チェックインは10数名のスタッフ総出で対応。30名ちょっとの客のチェックインが10分弱で完了。すぐ部屋に案内されるため、客側の待ちストレスが非常に少ない。
  • 館内通路(というかフロント以外)は非常に古い、というかボロい。言い換えれば、リフォームが必要な部分と不要な部分の判断が明確。
  • 部屋の設備のほとんどは基本的に古い。ただし水回りはきちんとリフォームされているため、古さは気にならない。ここでもリフォーム要否の濃淡が明確。
  • 風呂は大浴場のみ、完全リフォーム済みでキレイ。特に露天風呂「浮湯」は庭園の池に文字通り「浮かんでいる」ようで、形式も泉質も最高。
  • 夕食は「みちのく祭りや」というショーレストランで。食事のレベルは中の下だが、ねぶたのお囃子などのパフォーマンスが秀逸。
  • 朝食は「のれそれ食堂 ぬくもり亭」というバイキングレストランで。様々な種類の地元の家庭料理が食べられる。どれも「家庭料理」故ハイレベルではないが、おいしい。
  • スタッフはほぼ全員が全ての業務に携わる。チェックインをした後客を部屋まで案内し、さらにレストランでの給仕、ショーでのパフォーマンスも。余っている人的資源は皆無に近い。

これらの施策を振り返ると、青森屋は下記の点に集中して取り組んでいるように思います。

  • 顧客への個別対応部分を極力排し、
  • 全ての顧客が利用するような公共的な資源に集中的に投資することで、
  • 無駄をなくし顧客満足を向上させる

まず、顧客への個別対応部分はほとんどありません。
部屋の種類が少し違う以外、食事、風呂などの基本サービスは全ての宿泊客に共通しています。
ショーレストランでの夕食も全ての宿泊客が同じメニューを出されますし、バイキングなら言わずもがなです。大浴場を使う以上お風呂も同じ。
例えば夕食で複数のメニューを用意するとか、露天風呂付きの部屋など部屋の設備のバリエーションを増やすなど、特定の顧客に対する個別対応を行う場合、客単価の向上は図れると思いますが、当然限界費用も増加します。
「ラーメン」しかないラーメン屋さんと「ラーメン」「塩ラーメン」「味噌ラーメン」の3種のラーメンを用意するラーメン屋さんでは原材料の仕入れコストも違いますし、さらに「チャーハン」や「餃子」まで提供すると「中華鍋」や「餃子用鍋」等の設備も必要になる。客単価は当然上がりますが、損益分岐点を超えるレベルまでそれを注文する顧客数を増やすことが必要になります。
青森屋は、メニューをほぼ統一することによって変動費の削減を図り、コストを平準化させています。

そして、顧客へ個別対応しない一方、全顧客が利用する部分に集中して資本を投下することで、顧客満足の向上を図っています。
客室は水回りのみの最低限のリフォームに留める一方で、風呂は全面改装するというところにこの戦略が端的に現れています。
全ての顧客が利用する部分への投資は、裏を返せばそのコストを全ての顧客に分担させることを可能にします。
同時に、人的資源についても公共財化しているところも大きなポイントの一つ。
旧来の宿泊施設では、フロント業務に従事するスタッフはフロント業務しか行わず、レストランに勤務するスタッフはレストランの業務にしか携わりませんでした。
そのため、チェックインのピークが終わるとフロントのスタッフは暇になり、また食事のピーク以外ではレストランのスタッフは暇になります。
青森屋では、スタッフ全員をほぼ全ての業務に従事させることで、スタッフすらも全顧客が利用する資源とし、資源の最大活用を測っています。
この結果、顧客へのコスト負担の転嫁は最小限に留めながら、そのコスト負担以上のサービスを顧客が享受することを可能にしています。

これらの施策が、前述した「低い客単価を実現するためのコストダウン」と「低い客単価に比して高いサービスの提供」を実現し、リピーターを増やすことによって経営の黒字化を可能にしています。
まさにこれが「経営」と呼べるものでしょう。
これらの施策の一つ一つを目の当たりにするにつけ、驚きを禁じえない今回の旅でした。

ただ、残念ながら1つだけ残念なことが。
それは「マッサージの効率化」による弊害でした。
青森屋では、他の温泉宿泊施設と同様に温泉に不可欠なマッサージサービスを提供しており、僕も利用してみました。
マッサージの営業時間は24:00まで、僕は23:20から30分お願いしました。
マッサージ単価は10分1,000円でほぼ相場通り、またマッサージの質も十分でした。
しかし、終了する直前にスタッフから「もし時間があれば10分延長しませんか?」というオファーが。
営業終了時間まであと10分なので、「どうせだったら延長したら?」というオファーだったのでしょう。
僕は「連れもいるのでそっちの意向に合わせます〜」と答え、スタッフの方は「じゃあお連れの方に聞いてきますね」と。
まもなく戻ってきて「今確認中ですので、それまでもう少し揉みますね」と言われ「あ、はい〜」と答える。
そうこうするうちに10分が経過、「いつまで確認するんだろう?」と思っていたら「はい、終わりました〜」と言われました。
お会計をしたら、10分の延長料金がちゃんと計上されていました。
いや、恐らくサービスで10分延長してくれることなんてないんだろうなーとは思っていましたが(とはいえサービスしてくれたらまた「すげえ!」と思っていたでしょうが)、追加で課金するならばその了解をちゃんと確認して欲しかった。
この点は少々残念なところでした。

これは、マッサージに従事するスタッフの給料が恐らく歩合制であることに起因していると思われます。
マッサージに従事するスタッフは他の業務に比して専門技能を必要とするため、業務を全スタッフで分担することが出来ず、専業化します。
これによって生じる非効率を、歩合制にすることによって是正するとともに、スタッフ個人が顧客の勧誘や延長の推奨などの営業行為をするインセンティブを高める。
しかし、ノルマがある店に勤めるキャバクラ嬢が往々にしてしつこく同伴や延長を客に求めるのと同様、歩合制は時として顧客満足を超えた過度な営業行為にエスカレートします。
この点については、経営方針に反しない程度に是正すべきと感じました。(「延長は追加料金が発生する旨説明し了承を得ること」というルールを作る、など)

まあそんなこんながありながらも非常にいい宿でした。
翌日に寄った八食センターでの食事(魚屋さんが並ぶ市場で新鮮な魚介類を買ってから併設された食堂で七輪借りて焼いて食べる。下の写真参照!)も激ウマでしたし、週末ちょこっと旅行するには超オススメ、是非皆さん一度行かれてみてはいかがでしょうか〜。