実戦マーケティング戦略 (佐藤 義典)

実戦マーケティング戦略 (佐藤 義典)



久々に「戦略モノ」という少々小っ恥ずかしいものを読んでみました。

知識というものはどんどん一般化していくもので、以前は戦略コンサルタントのような一部の人々が駆使するツールであった思考法やフレームワークも、もはやイチビジネスマンであれば知っておかなきゃダメでしょ的位置付けになってきているように思います。
一方で、そのような思考法やフレームワークは次から次に考え出され、それについての論文や本が出版され、巷に満ち溢れてなにがなにやらよくわからない。さらに、これはもしかしたら日本人特有かも知れませんが、ただただそれらを暗記して自分のカラダをそれらに合わせようとする。そして結果が出ない。
もちろんこれらの思考法やフレームワークは決して見掛け倒しのものではありません。発案者が一生懸命考え、様々なプロジェクト等で実際に利用され、実際に効果を出してきたものであるはず。そうであるがゆえに少なくとも基礎的な思考法やフレームワークはここまで普及している。しかし昨今、例えばBCGが発明したかの有名なPPMについて適切なタイミング適切な意思決定の場面で、適切に自分流にカスタマイズした結果有効な示唆を導き出している人がどの程度いるのでしょうか。PPMや他のフレームワーク、手法を組み合わせ、整合性のある戦略を構築できている人がどの程度いるのでしょうか。
ただただそれらを暗記し、そのまま自分の眼前の課題に適用し、ちょっとした違和感に目をつぶり、得られた示唆に首をかしげているのではないでしょうか。

少なくとも僕はそうです。

なんだか偉そうなことを語りましたが、そろそろ巷に溢れたこれらの思考法を一度再整理してみる時期に差し掛かっているのではないかな、ということです。
で、そんな目的にオススメなのがこの本。

元々は知人から「マーケの良著教えて」と言われ、うんうん悩みながら推薦した本。実はオススメした段階では未読だったのですが、お気に入りの雑誌「THINK!」での連載で少し読んだことがあったため、またAmazonの評価が相対的に高かったため、まあ大きな間違いはないだろうと思って推薦しました。そして推薦してからだいぶ経ってから読んでみた(笑。ちょっとドキドキでしたがやはりオススメしたのは概ね間違っていなかったことを痛感し、一安心。良著です。

本書は「実戦マーケティング戦略」とう題名ですが、恐らくこの戦略構築のノウハウはマーケのみに留まらず広く適用可能。そもそも、「ビジネス」を「なんらかの財・サービスを提供することで対価を得て利潤を生む」ということだとすると、それを支援する行為が「マーケティング」なのであって、その意味では本書のターゲットも近年「マーケティング」という言葉から連想されるような行為に限られないのは自明なのかもしれません。
本書、というか本書で紹介されている戦略構築手法「BASiCS」の特徴は、過去様々な偉人たちが産み出してきた思考法やフレームワークを再度整理し、整合性を持たせた独自のツールに進化させているところです。そこにはポーターの5 Forcesや4P、3C、マッキンゼーの7Sなど様々な著名フレームワークのエッセンスが盛り込まれつつ、ここのフレームワークの関係性を整理した上で整合性の高い全体戦略の構築を可能にするノウハウが詰まっています。

これが良著たる所以は、何度も申し上げているとおり非常に整合性が高い点。論理的に矛盾なく理解しやすいし、筆者も述べている通り、過去に提唱された様々なマーケティング戦略のいいとこどり的手法であるため、平たく言えば「これ一冊でOK」的な内容。難易度もやさしく、1日で読める。日々の業務の際デスクに置いて、ガイドライン的に使いたい感じ。

さらに、実はフェルミ推定の教科書として、戦略コンサルタントの面接等で出題されるケーススタディの参考書としても使えそうなのもいいところ。
戦略コンサルの面接で出題されるケーススタディは、主に論理的思考を駆使して物事の概数を求める計数系と、求めた概数に基づき有効な戦略を提示する戦略系の2種類があります。前者は、要するに因数分解の練習と計算の練習さえすればいいので他のフェルミ推定の教科書などを使って勉強すれば十分ですが、後者は結構厄介。フェルミ推定を前提としてインパクトの評価を含めた戦略立案が必要になるため、フェルミ推定の教科書だけでは不足です。その点、「定量化」にも重きを置いている本書は、算出した概数に基づく戦略策定のサンプルも収録されおり、結構参考になると思います。

ただ少々残念なのは、本書で紹介されている手法、自体複数の要素が互いに連関しているが故に(例えば、「BASiCS」即ち「Battle Field(戦場)」「Asset(資産)」「Strength(強み)」「Customer(顧客)」「Selling Message(売り文句)」の各要素は互いに連動する)、どこから手をつければいいのかが些か難しいところ。戦場は資産や強みに依存するだろうし、その一方で強みは戦場に依存する。卵鶏状態の中、どこからパラメータを決めていくかが結構難しそう。
さらに戦場を決めるためには、筆者も本書で指摘しているように、精緻な市場調査が必要。マーケットがどのようになっているのか、どうセグメンテーションできるのか、各セグメントごとにどのくらいのボリュームがあるのか、云々。この現状認識が疎かだと有効な戦略立案は困難と思いますが、本書ではそこには言及されていません。

とはいえ、マーケ的戦略的なものの考え方を学んでみるにはとても助けになる一冊だと思います。過去の様々なフレームワークを覚えてみたものの何をどういう場面でどう使えばいいのかわからん、という迷える子羊の方々にもオススメです。