世界のグロービッシュ (Jean-Paul Nerriere & David Hon)

世界のグロービッシュ (Jean-Paul Nerriere & David Hon)



物事は制約を加えた方がシンプルになります。
例えば数学における多次元方程式の解き方。変数が多すぎる場合解析対象とする二変数以外は固定としますが、これは制約を加える一例。
また先日のブログエントリーに書いた国家戦略の例。採り得るオプションの方が戦略構築という問いは複雑化します。

語学においても同様。
最近僕はインドネシア語を習い始めたのですが、大学時代にあまり勉強しなかった第二外国語を除くと、これが物心ついてから初めて学ぶ外国語。そこで学び方を工夫してみました。
それは、疑問詞と接続詞に注目すること。
基本的に名詞、形容詞、副詞はその数がほぼ無限です。名詞なんて物事の数だけあるし、形容詞も副詞も表現の数だけある。一方、疑問詞や接続詞は有限。疑問詞なんてのは5W1Hで表せるように基本的には10もありませんし、接続詞も論理的な文章を構築するために必要なものはそう多くありません。このため記憶は容易。あとは「私」とか「大きい/小さい」「高い/安い」などの基本的な名詞、形容詞、副詞を学びさえすれば簡単な会話はできるようになる。

これ、ある種の制約だと思うんです。
もちろん豊富な語彙で情緒豊かに語ろうと思ったらもちろんこれでは不十分です。ただ、「自分が思っていることを相手に伝える」という目的のみに注目すれば、これで十分。日本語でも、例えば「四面楚歌」という四字熟語を知らなくても「ひとりぼっち」「寂しい」「孤独」などその状況や気持ちを相手に伝える手段は数多くある。

本書は、事実上英語が世界のグローバルスタンダードになる中で、英語を母国語としない人々が使う英語を「Globish」として再定義するものです。
「Globish」は基本的には英語です。しかし、それは「コミュニケーション」に注目して無駄なものを排除した「制約あり」の英語。
その制約とは、

  • 用いる単語は主要1500語
  • 主に能動態を用いる
  • 一つの文章を15語以下に抑える
などというもの。
細かいニュアンスや豊かな情緒を伝えるのは困難かもしれないし、これで詩や小説を書くのは恐らく不可能だと思います。しかし、世界に数多くいるノンネイティブの英語話者とのコミュニケーション、ビジネスの場であったり教育の場であったりあらゆるシチュエーションで生じるコミュニケーションにはこれで十分です。もちろんネイティブの英語話者とのコミュニケーションも可能。

ちなみに、本書だけでGlobishをマスターしようとするのはちょっと難しいかもしれません。本書はそもそも「Globishとはなんたるか」について解説した本であり、決してGlobishのトレーニングを目的として書かれているわけではありません。本書は見開きのページの左側がGlobishで綴られた原文、右側がそれに対応する日本語訳というユニークな体裁をとっており、本書自体がGlobishの最たる例となっていますが、それでもGlobishを学ぶには不可欠な「語彙の習得」、「最低限の文法知識の獲得」、そして「その学んだ知識の活用・実践」というものは本書で賄うことはできません。とはいえ、本書を読んで「Globishとは何か」ということを理解した上で上述したトレーニングに臨めば、その効果はより覿面に表れるだろうと思います。

我々日本人が中学、高校、大学と、10年近く英語を学んできたにもかかわらず、それでも国際的なビジネスの場や教育の場で他の国の人々と思うように英語で意思疎通を図ることができないのはなぜか。このブログでも色々な原因を考察したり、自分なりの学習法を考えたりしてきましたが、一つの大きな原因は我々日本人が「『英語』を学ぼうとしたこと」にあるのではないかと思います。
中学、高校、大学における試験で、学年が上がるにつれより高度な語彙、より高度な文法知識を試される。その都度、細かい文法の間違いを指摘されたり、細かい発音の違いを指摘されたり。徐々に間違いに対して臆病になると同時に、徐々に難易度が上がっていく「教科としての英語」に恐怖を覚えていく。しかし、実際のコミュニケーションの場ではそんな細かな誤りや難しい語彙、文法知識はなんら関係ありません。
先日アメリカで働く兄と久々に話をしましたが、彼に「アメリカ人と話していると『正しい英語』を話せるようになる?」と聞いたところ、彼は「いやいや、いまだに”most cheap”とか言っちゃうよ」と言っていました。僕もよく”more cheaper”と言ってしまったりします。これ、もちろんテストでは誤りです。”most cheap”は”cheapest”ですし、”more cheaper”は”cheaper”だけで十分です。いや、確かに”more cheaper”が文法的に誤りであることを知っていることは必要です。しかし、口から言葉が出なくなるほどそんな誤りに怯える必要はない。なぜなら”more cheaper”でも相手には十分に通じるので。ちなみにインドネシアでは三人称を表す単語”Dia”が男女の区別を持たないため、インドネシア人は三人称が男性であっても女性であっても”he”と言います。文法的には間違いですが、通じるのでOKです。時々混乱しますが。
また、以前のエントリーで書いたように、僕の英会話力が急速に向上したのは学習する英語の難易度を下げた時からです。ゴルフクラブ等も同様と思いますが、扱いの難しい上級者用のクラブを四苦八苦して使うよりも、扱いの易しい初心者用のクラブを完璧に使えるようにした方がいいスコアが出ます。少なくともノンネイティブの英語話者と話す上では、中学二年レベル、よくて中学三年レベルの文法知識で十分です。

語学でも仕事でも、ちょっとした困難にぶつかったら、それに「制約」を加えてみると案外カンタンになるかもしれませんね。