パラダイムの魔力 (Joel Arhtur Barker)

パラダイムの魔力 (Joel Arhtur Barker)



BCGの元日本代表、内田和成氏推薦の本。
僕はこの方のファンです。アメリカのコンサル専門誌「コンサルティング・マガジン」による”世界の有力コンサルタントトップ25″に選ばれるくらいのトップコンサルタントでありながらも、その温厚な語り口、飄々としたキャラクターがとても好ましい。そんな内田さんが自身のブログでことあるごとに薦めてられていたのがこの本。

昨今秀逸なコンセプトメーカーとして賞賛されている本の多くは、根本を辿るとある単一のメッセージを主張しているように思います。
そのメッセージとは「固定観念を捨てる」こと。
イノベーションのジレンマ」然り、「ブルー・オーシャン戦略」然り、企業/組織/事業が永続的に繁栄を続けるための方法論、特に昨今の急激な時代の変化に対応した戦略立案/事業経営の実践方法について述べる本は大体が「過去の成功体験に囚われず、リスクテイクし、チャレンジし続けるべき」というのが主たるメッセージ。どの本も同じメインメッセージに異なる肉付けがなされた良著ですが、やはり主たるメッセージは「固定観念を捨てる」、この一言に尽きると思います。

幸いなことに、この時代は過去のビジネスモデルが淘汰される瞬間を目撃し易い。レコード屋やCD店は次々に閉店し今や音楽はインターネットからMP3という無形のデジタルデータを買うのが当たり前となり、またその主たるプレーヤーはかつれのレコードショップではなくAppleやAmazonなど全く異なる分野から来たプレーヤーばかり。
15年前にWindows OSで市場を席巻したMicrosoftは、何故か単なる検索屋に過ぎなかったGoogleによって今やその地位を脅かされつつあり、OSやブラウザ、そしてアプリケーションの全てのレイヤーでOSはWindowsからChrome OSに、ブラウザはInternet ExplorerからChromeに、アプリケーションはOfficeからDocuments & Spreadsheetsに置き換えられるプロセスが進行中です。
ここでキーポイントになるのはインターネットやクラウド。先日Appleが発表したサービス”iCloud”はもはやファイルやフォルダの管理という概念を吹き飛ばしつつあります。

過去に成功した経験がまたその次も有効とは限らない。過去にうまくいかなかったアイデアがまた失敗するとも限らない。
「失敗は成功の母」とはよく言ったものですが、上述のMicrosoftの事例のように「成功は失敗の父」となってしまう仕組みをうまく説明したのが本書です。(まだMicrosftが負けたと決まったわけではありませんが)
本書の素晴らしいところは、対象をビジネスには限定せず固定観念に囚われる仕組みとそこから抜け出す方策を「パラダイム」というキーワードを使って実にシンプルな切り口で解き明かしているの点。確かに固定観念に囚われるという現象自体ビジネスシーンに限った話ではないのでその対象もビジネスに限定する必要などありません。例えば「こないだクラブで会ったあの子、ケバくてチャラいから絶対料理なんてできないよね!」なんていうのも「偏見」や「先入観」という名のパラダイム。一方、このテーマをビジネスに適用し具体的に論じたのが先に挙げた「イノベーションのジレンマ」や「ブルーオーシャン戦略」であるとも言えます。

さらに特筆すべきは本書の読みやすさ。「パラダイム」なんていう「聞いたことはあるが説明しろと言われるとちょっと微妙」的な概念を扱った著作であるにも関わらず、シンプルかつ無駄のない文章はそれだけでエキサイトし、エンジョイできる。「パラダイム」と切り離しても、「文章の書き方」本としても非常に勉強になります。

ジャケットの微妙さとは裏腹に、その中身の濃さにはほんと脱帽です。