スティーブ・ジョブズ (Walter Isaacson)

スティーブ・ジョブズ (Walter Isaacson)



なんと評してよいのかわかりません。が、読むべき本です。
単純に面白い。

2011年10月5日に永眠したスティーブ・ジョブズ。
iMacやiPhoneなどのヒット商品を次々と生み出し、音楽業界や映画業界に革命を起こす一方、その秘密主義ゆえApple製品のみならず本人のプライバシーでさえも常に噂、ゴシップの対象となってきた人物。その強烈な個性のために様々な噂、都市伝説に事欠きませんでしたが、一方でそれらはどこまでが伝説でどこまでが真実なのか、これまでは謎に包まれていました。
今更説明する必要もありませんが、本書は稀代のイノベイタースティーブ・ジョブズについて、アインシュタインやベンジャミン・フランクリンの自伝で有名なウォルター・アイザックソンが著したもの。本書は、そんな数多くの伝説に関する真実を解き明かす一つの好材料です。

題材となった本人もスゴければ、その伝記もスゴい。
本書は彼の死のわずか19日後の10月24日に発売されました。発売された時点で2011年は残すところ2ヶ月少々、そんな短期間にもかかわらずAmazonのランキングで1位になるほどの驚異的なセールスを記録。Amazonのみならず、あらゆる書店でも平積み、電子書籍でもリリース、そしてジャカルタ市内の書店やApple Storeにまで平積みされるなど、それはまるで新たにリリースされたApple製品のように、世界的な現象だったと言えます。
その驚異的なセールスの理由はもちろん「スティーブ・ジョブズ」という題材や「彼の死後の直後」というタイミングに依る部分も少なくないと思いますが、読んでみて思ったのはやはりその内容が秀逸であること。伝記はその題材となる人物の魅力、それをまとめる著者の手腕、そして訳書ならば訳者の技巧が製品のクオリティに大きく影響すると思いますが、本書はその3つ全てが高次元で成立していたと言えます。
つまり、あらゆる都市伝説に彩られた興味深いスティーブ・ジョブズの人生、それを精緻な描写や大胆な場面転換でまとめ上げるウォルター・アイザックソンの文章、さらにそれらを技術よりの用語を含め誤訳等のストレスなくするりと読ませる井口耕二の訳。この3点がハイレベルであるがゆえ、本書は2011年のベストセラーに相応しい著作に仕上がっていると思います。
ハードカバー2冊というボリュームにもかかわらず、あまり気の利いたレビューが書けないくらい、読者は一気に読み終えてしまうことでしょう。


さて、そんな本書の価値は3点あると思います。

  1. スティーブ・ジョブズその人を知ること
  2. スティーブ・ジョブズとその周囲の人々の間の人間関係を知ること
  3. MacやiPhoneなどApple製品の誕生秘話を知ること

いずれ点についても「これまで知られていなかったあんな噂やこんな謎が白日の下に晒される」ということの面白さですが、特にこれまであまり語られてこなかった「スティーブ・ジョブズと愉快な仲間たちの人間関係」や「Apple製品の誕生秘話」はAppleファンとしては非常に興味深い内容。
例えばかの有名なアタリでのアルバイトのくだり。ゲーム会社アタリから短期間でのゲーム制作を依頼されたジョブズが「報酬山分け」を条件にスティーブ・ウォズニアックを口説いて手伝ってもらった挙句、報酬の大半をピンはねしたというエピソード。これまでは噂に尾ひれがついてもはや作り話のようになっていましたが、本書ではジョブズとウォズそれぞれのコメントを読むことができてとても面白いです。とはいえ、真実は結局闇の中なのですが。
Apple製品の誕生秘話についても、Appleのインダストリアルデザイナー、ジョナサン・アイブのラボでいつ頃どのような製品が検討されていたか、それがどのようなプロセスで現在世に出ている製品の形に近くなっていったか、これらに関して噂ではなく事実を知ることができるというのは、Appleファンでなくても興味をそそられるのではないでしょうか。

スティーブ・ジョブズ、あらゆる面で傑出した人間。しかもそれはプラス方向のみならずマイナス方向にも突き抜けている。ここまで偉大でありながら、同時にここまで人としてダメな部分を持っている人間も珍しい。しかし逆に、人の内に秘める陰と陽が常にバランスしているとするのならば、あれだけの陽を生み出すにはあれだけの陰も同時に必要だったのではないか。得てして偉人とはそういうものなのではないか。
本書はジョブズ公認だからといってジョブズに媚びてその陰の部分を包み隠すようなことはしていません。陰も陽もフェアに書いている。故に面白い。
Appleファンは勿論、そうでない人にもオススメできる1冊です。