日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門 (藤沢 数希)

日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門 (藤沢 数希)



よく「日本人は大学で勉強しない」と言われます。何を隠そう僕もその一人です。
一生懸命受験戦争を乗り越えてようやくたどり着いた大学、そこへの入学がある意味ゴールであり、「ここからの数年間はモラトリアムだ!」などということを半ば本気で信じていたあの頃。日々バイトや遊びに明け暮れ、時々試験の季節になると急にノートをかき集め、一夜漬けでなんとか乗り切ろうとする。それを繰り返す中でいつの間にか始まる就職活動。面接ではあまり学業の成果よりも自分が何を培ってきたか、などのテーマについての予定調和的模範回答が求められる。その結局、勉強はおろそかのまま、卒業に至る。
就職した後も同様。同じ会社に採用された同期には法学部卒や文学部卒、工学部卒やその他の学部を卒業した人間もいましたが、新入社員研修でやる内容は皆同じ。皆イチからその会社で働くに当たって必要なことを学んでいく……。
そして赴任先で経理の子に言われた一言に額然とする。
「これ、会計の基礎ですけどわかんないんですか?確か経済学部卒でしたよね?」




現代日本においては政治的な課題、論点が山積です。
増税すべきか否か、TPPに参加すべきか否か、郵政は民営化すべきか否か。政治家は思い思いの持論を振りかざしますが、結局選択すべきは我々国民。我々一人一人が各政策を吟味し、その政策を遂行してくれる政治家に投票せねばなりません。
しかし、わからない。どの政策が一番いいの?
わからない時は有識者に聞くのが一番です。幸い専門家のアドバイスはテレビなどのマスメディアを通じて提供される。しかもそれは咀嚼されてわかりやすくなり、さらにエンターテインメント風味濃いめの味付けで美味しくなっている。お陰様で我々国民の多くはそれぞれの論点について自分なりに答えを出すことができるようになります。
しかし。
選挙直前の時期のワイドショーによくある「巷の人にこの政策に賛成か否か選んでもらう」的企画を見たりすると、街中でアンケートに答えた人々の選択の理由の乏しさ、不明瞭さに愕然。
「なんなんだこの人たちは。まるで何も考えていないじゃないか!」
これは若者だけの問題でもなく、老若男女に共通するようです。渋谷にいるギャル男的な人の回答と、新橋にいるサラリーマン的な人の回答にはほとんど違いが見られない。
「これだから日本はダメになるんだ!おれが回答者だったらなぁ…………あれ?」
結局自分も答えられない。




「勉強できる内が華」とはよく言ったものですが、僕も御多分に洩れずそれを痛感する一人です。そんな僕が自分の勉強不足を痛感するのは主に上記のようなシチュエーション。経済学部を卒業した僕は、卒業後自分の経済学に関する知識の乏しさに愕然とする瞬間に度々悩まされています。
そんな後ろめたさの中でようやく勉強し直す今日この頃。その中で手に取った一冊が本書でした。

本書の特徴は、一般的な経済学の教科書とは逆のアプローチをとっている点です。経済学部で経済を学ぶ場合、普通は基本的な理論を学んでからその上で現実的な問題を学びます。しかし教科書が古いとその題材となる現実の問題も古かったりすることはザラ。
しかし本書は現実の問題が先にあり、それを解説するために基本理論が用いられる。そのテーマは年金問題、失われた20年、デフレ、ゼロ金利政策、1000兆円を超えるる政府債務、等々。僕のように経済学部を卒業しながら経済学のことがまるでわかっていない人にも、そもそも経済学部などとは縁のない人にも、経済学の基本理論を踏まえつつ現実の問題を解説してくれる本書は、本当にゼロから学ぶ人にとってはちょっとハードルが高い部分がありつつも、いい教科書になりそうです。

さて。
日本が抱えている経済的課題はあまりにも多く、そしてその解決のために残されている時間はあまり多くありません。その一方で、依然として国民の多くは経済問題を感情的に捉え、そのままそれを投票行動に反映させる。政治家は経済的な観点での政策の是非を説明する努力すらすることなく、感情に訴える得票を図る。

政治は国民を映す鏡です。特に直接民主制を敷く国家であればなおさら。
新聞やテレビで日々報じられる何をやっているのかよくわからない政治家たちは、我々国民の投票により(ある程度)公平に選ばれています。
破綻する年金、増え続ける政府債務、長引く景気の低迷。これらの現状を打開するためには、もちろん政治を変えていく必要がある。そのためには我々国民が政治経済についてある程度しっかり考えた上で責任を持って投票をする必要がある。
これはとても大変なことですが、政治家が自分の提示する政策の功と罪をわかりやすく説明してくれない以上、これ以上の迷走を防ぐためには我々が変わるしかないないのでは、と思ったりします。さもなくば、いっそのこと政治参加は諦めて独裁者に全部お任せしちゃうのも一つの手かも。

経済学は生きていくに当たって非常に重要な学問だと思います。その他の学問ももちろん重要ですが、経済学は特に重要。なぜならそれは人々の日々の営みに関する学問だから。
テレビに映る政治家を批判して溜飲を下げる前に、我々もちょっとばかり経済学を勉強して政治家さん達に歩み寄ってみるのも、たまにはいいのではないでしょうか。