身近にある比較優位論。

身近にある比較優位論。

身近にある比較優位論。



最近、海外赴任先での仕事の内容が偏ってきているような気がします。
赴任直後は、会社設立直後で人がいなかったということもあり、それこそなんでもやっていました。
しかし最近は実案件に携わる量が減ってきたような気がします。もちろん一部の案件は自分が入る必要がありますし、他の案件でも急に駆り出されることはしばしばあります。
ただ以前ほどなんでもかんでもやらねばならぬような状況ではなくなってきているのは確かです。

では僕は何をやっているのか。
一言で言えばバックエンド業務です。
事業計画の数字を作ったり毎月のレポーティングや乖離分析、もしくは本社の社長への報告資料の作成、はたまた給与体系やビジネスを進める上での基本手順や決裁、委任内規等の整備。実案件は新規案件のビジネスプランニングや顧客との交渉くらい。
もちろんそれは優秀なインドネシア人社員たちのおかげです。ほとんどのタスク、ワークは彼らにやってもらっています。
最近では彼らも自律的に行動してくれるようになり、頼もしい限り。彼らにとって既知の分野に関してはその成果について気を揉む必要もあまりありません。
とはいえ、こんなにバックエンド業務に押し込まれてしまうほど僕はフロントに向いていないのか?元々は営業として派遣されたんじゃなかったのか?そもそもこの状態、自分はコストセンター化していて利益創出に貢献していないのでは……?

そんな不安がちょっとばかり胸を締め付ける中、他国に赴任している同世代の人々に思いを馳せてみました。
……つぶさに見たわけではないですが、どうも実案件にどっぷりな人は少ない様な気がします。実案件に入っていたとしても顧客は日系企業だったり。各国に共通するこの現象はなんだろう?

思うに、それは比較優位によるものではないか。
2つ以上の仕事と2人以上の労働者がいる場合、分業した方が絶対に得というこの概念、元々は国際貿易を論じる際に自由貿易の論拠として用いられますが、その適用範囲は貿易のみにとどまらず、このような労働者間の分業についても同様に成立します。
例えば上司と部下。上司の方が資料作成もチームのマネジメントも、部下よりも長けているとします。しかし、だからと言って上司が両方やるべきではない。このケースでは多くの場合上司の方が資料作成に関して部下よりも比較劣位にあるため、部下が資料を作成すべきである、という結論になります。そして上司は部下に任せることによって空いた時間をチームマネジメントに集中投下する。これによってこのチームは分業がないチームよりもはるかに高いパフォーマンスを発揮できるようになる。これが比較優位論です。つまり関税等は取っ払って農業製品は農業が得意な国から、工業製品は工業が得意な国から、自分は自分が得意なモノを生産して他国に売りさばく、そういう状態がベストであると。

この比較優位論は今の社内における日本人とインドネシア人の分業についても同様に当てはまると思います。
先に挙げた事業計画の作成や社長説明資料の準備、給与体系や手順、標準の整備やビジネスプランニングなどは、ほぼすべて僕が彼らに比して比較優位にある分野。一方で日々のプロジェクトマネジメントやインドネシア企業とのリレーション構築等については彼らの方が比較優位にある。これらの一部の作業においては僕が絶対優位にある場合もありますが、しかしながら多くの場合において比較劣位です。このため僕がこの分野に介入することはチームとしての生産性低下を招くことを意味する。

そんなわけで自分の仕事がバックエンド系に収斂されていくのはある意味仕方がないのかなあと思いつつ、ふと頭にある疑問が。
なぜ僕は今自分がやっているこれらの業務において、インドネシア人社員と比して絶対優位ないしは比較優位にあるのか?
彼らの中には以前会社経営に携わっていた人間もいるため、その根拠は知識や能力、経験では説明できません。給与体系の整備はインドネシアの労働習慣や労働法に精通した彼らの方が長けているだろうし、ビジネスプランニングも事業の立ち上げ経験で言えば僕の能力なんて絶対優位とはとても言えない。
その一方で、僕のその他の能力が低すぎるが故に結果として上述した分野が比較優位になっているとも思えない。
「君はホントに何をやってもダメだな……。仕方ない、Excelの資料作りでもやっていたまえ!!」
……実は現実がこうだったなんて思いたくないものです。

ではなぜか。
その理由は、上述したような内向き作業の多くが「日本的」だから、というものに帰結するのではないでしょうか。
例えば事業計画やレポート。財務会計の観点ではただただルールに則って報告すればいいだけなのでラクです。基本的にはシステムに投げ込むか経理屋にお任せすればいい。問題は管理会計の部分で、ここは経営者の好みが出るため厄介。ここに本社側の好みが入ってくると、所謂「日本企業」的粒度と頻度での数字精査が求められるようになります。これは日本人でないとできない。
給与体系や標準規約類も同様。ある部分は現地法人の裁量がありますが、その一方で本社との足並み合わせが必要になる部分もある。このような部分も、事業計画と同様に本社の意図を汲み取ることができ、かつそのような制度に理解がある方が比較優位になる。
この結果フロントエンドはマーケットや顧客に近いインドネシア人の方が比較優位になり、バックエンドは「日本式」を熟知している日本人が比較優位になる。

とはいえ、その一方で日本人の労務コストがインドネシア人と比較して非常に高いのも自明。
そもそもの労務費が高い上に人を一人駐在させるのは生活支援や健康管理、ビザや納税のケアなどとても大変でそのそれぞれにコストがかかります。従って日本人(というか新興国に駐在する多くの先進国出身外国人)の人件費は非常に高額になる。
先述した比較優位論の結論は「日本人はバックエンド業務にアサインした方がベター」です。仮にこれを正しいとするのならば、コストセンターには膨大なコストを費さなければならないこととなる。本末転倒です。
つまり海外駐在事務所での経済合理性を追求するのであれば、可能な限り日本本社からの影響を減らし、もしくは影響が残る部分は自動化等によって無人化し、バックエンド業務において日本人を比較劣位にすること。その上で、フロントエンドにおいては戦略に応じて柔軟に日本人ないしはインドネシア人をアサインすればよいのではないでしょうか。

なんてことを考えながら、今週もずっとExcelをいじりつつ過ごす日々でした。