DiscReview: May. 2013

DiscReview: May. 2013



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  1. Andrew Bayer / “If It Were You, We’d Never Leave” [Anjunabeats]
    どういうわけかアーティストアルバムリリースラッシュの2013年4月、良質なアルバムが乱立する中で真っ先にご紹介したいのはAbove & Beyond率いるレーベルAnjunabeatsの看板アーティスト、Andrew Bayerの新作。結構ガチゴチのトランスが多くリリースされる同レーベルにおいてどちらかと言うとBPM抑え目かつ荘厳な美しさを醸し出すAndrew Bayerは他とはちょっとキャラが違う感じ、どちらかというと姉妹レーベルAnjunadeepの方が似合うのでは?と思いつつも、本作はトランス、ディーププログレッシブというよりかは平均BPM100前後でもはやエレクトロニカの世界に片足以上突っ込んでしまったと言ってしまってもいい意欲作。鬼のように美しい曲だけコンパイルされた超推薦盤。今年のベストはDJ Koze “Amygdala”かこれで決まりの予感。

  2. Minilogue / “Blomma” [Cocoon Recordings]
    続いては既に大御所感のあるMinilogueのニューアルバムをご紹介。Minilogueと言えば以前はTraumからリリースを重ねる気鋭のプログレッシブハウスアーティストであり、そしてサイケプロデューサーSon-Kiteの別名義として知られていましたが、ある時からどんどん作風が地味になっていき、そしてどんどん曲の尺が長くなるという病に侵されてしまいました。その挙句が本作。収録曲数はたった8曲であるにもかかわらず、総収録時間数は2.4時間というなんだかよくわからないトチ狂ったアルバム。「初期CDの最大収録時間はベートベンの第九を参考に74分と決められた」なんてエピソードはどうでもよくなる長さです。しかしながらその一曲一曲のクオリティそしてその展開は一級で、全く飽きさせない2.4時間を過ごせること請け合い。言ってみれば3曲で54分というこれまた驚異的な尺を誇りつつ怒涛の展開で息つく間もなく聴き終わるRovo / “Condor”のような感じ。素晴らしい。

  3. Francois K / “Renaissance: The Masters Series” [Renaissance Recordings]
    先に紹介したMinilogueのニューアルバムはもはやただのアルバムではなくMixなのでは?と思われましたが、こちらは正真正銘のMix。由緒正しいRenaissanceの”The Masters Series”の新作ではあるものの、1月にNick WarrenのMixでリリースしたばかりなのになんとも気の早い最新作。今回はMixを「ご老体の癖に恐ろしいまでにオープンマインドな選曲ストライクゾーンでユルいのからカタいのまでなんでもプレイする妖怪」ことFrancois Kが担当。まさに妖怪の名にふさわしく、Joe ClaussellやDany Krivitとレジデントを務めるパーティ”Body & Soul”での彼とは全く異なるディープテック〜テクノな内容。ユルいのは1枚目の1曲目に収録されているJazzanovaくらい。とはいえその長いキャリアに裏打ちされる確かな選曲眼と老体ながらPCDJを使いこなす卓越した技術の織り成す世界観はさすがの一言。ハイクオリティです。

  4. James Teej / “Linking Your Disorder (Timo Maas Remix)” [Last Night On Earth]
    ニューアルバムと言えばこの人、Timo Maasも。そもそもは2000年前後のプログレッシブハウスブームにおける重要人物の一人で、確かAzzido Da Bass / “Doom’s Night”のリミックス前後で火が点いたような。出世作”Doom’s Night”やGreen Velvet / “Flash”、Fatboy Slim / “Star 69″あたりに見られる骨太でファンクな作風が持ち味で、新宿Liquid RoomにDave Seamanと二人で来日した時のギグは僕にとって最も印象深い思い出の一つ。そんなTimo Maasが4月にリリースしたニューアルバム”Lifer”は、クオリティは低くはないものの作風が全く変わってしまってテックハウスからエレクトロニカ、ヒップホップからロックと縦横無尽に行き過ぎるあまりなんだか雑多になってしまった印象。てことでパス。代わりに本作。Sashaのレーベルからこちらもニューアルバムをリリースした(ほんとにアルバムリリースラッシュ!)James Teejのリミックス。長いブレイクや骨太キックが少し過去を彷彿とさせるような。

  5. Nic Fanciulli / “World Dance” [Circus Recordings]
    最近本人の作風もレーベルSavedからのリリースもめっきり地味になってしまって食指が伸びなかったNic Fanciulli、しかし本作はこれまでの作風とはちょっと毛色を変えてきてなかなかいい感じに仕上げています。本作はYousefのレーベルCircusのコンピレーションに収録されている一曲、イントロはなんだかいつも通りな感じの地味なトラックですが、中盤くらいから入ってくるBasement Jaxx / “Fly Life Xtra”的な、90年代NYハードハウスを知る人にとってはちょっと懐かしい感じのシンセが非常にカッコよい感じに。大箱で聴いたらアガるんだろうなあ!

  6. Breach / “Jack” [dirtybird]
    いつもコミカルとシリアスの狭間をユラユラしているが故にリリースされる曲の大半が使いにくい、しかし一部の曲は異常にカッコいいという分散が激しいレーベル、dirtybird。カッコいいんだがアクが強すぎ。本作も比較的アクが弱めだからまだ使えるけど一歩間違えると危うい怪しさを含んだ1曲。しかしながらこういうギリギリ感が「カッコええええ!」感を生むのであり、dirtybirdのレゾンデートルはそこにあるのであり、そしてハウスミュージックってもともとこういうトチ狂ったアンダーグラウンドな音楽だったでしょ?と思うとまあこれからもこの路線で行ってくださいという感じ。モノラルシンセのどシンプルなベースラインと女性ボイスサンプルが織り成す王道ハウスミュージックである本作はついつい腰が左右に持っていかれてしまう秀作。

  7. Alix Alvarez / “No Loss” [Ovum Recordings]
    Josh Wink率いるOvumからのリリース。聞いたことないアーティスト。これまで名前を聞いたことがなかったアーティストの4曲入りEPに収録されている曲のうち2〜3曲がピンと来ないと大抵そのアーティストは僕と相性があんまりよくないってことなんだなと理解するのですが、この人、というかこの曲だけは例外。他3曲はピンと来なかったのに。とはいえ作風は所謂「Ovumからリリースされそうなディープテックハウス」。わかる人にはわかりわからない人にはわからない表現で大変恐縮ではありますが、要するにちょっとハットの鳴り方がテクノっぽさを残しつつも全体的にはJosh Wink好きのしそうな良質なディープテックハウスであると。カッコいいです。

  8. Tom Glass / “A Lot Of Things” [Hope Recordings]
    Hope Recordingsというレーベルも大変懐かしいレーベルでありまして、こちらも大体2000年前後のプログレッシブハウスブームの頃、レーベルオーナーであるNick Warren並びに彼のユニットWay Out Westがブイブイ言っていた時に数多くリリースされていたように記憶しています。個人的に思い入れがあるのはStarecaseというアーティストで、”Faith (Loafer Remix)”なんてのは今聴いても目頭に熱いものを感じます。で、以前のBPM130前後のトランス直前プログレッシブハウスから転向してもはやエレクトロニカの人になってしまったNick Warrenに呼応するかのようにリリースされる楽曲も大人しくなっていったHopeでありますが、引き続きリリースされる楽曲のクオリティは高いです。本作は典型的なパーティ締めくくり用トラック。どこかで聴いたことあるようなコード展開ですが、まあいいものはいいということで。

  9. Max Cooper / “Meadows” [Traum]
    今月のエレクトロニカ。ほんとにこのMax Cooperって人は。よくもまあこんなに壮大で美しく、かつ儚い楽曲を次から次へとリリースできるのか。ただただ身を委ねるためにある曲。カナル型イヤホンでの視聴が吉。

  10. Zedd / “Clarity (Aurtas Pararell Trip Club Mix)” [Bootleg]
    今月のブートレグ。Zeddと言えば泣く子も黙る新進気鋭のクリエイターで、新進気鋭過ぎて若干20歳とそこそこにもかかわらずLady GagaのツアーDJなんかもやっている世のDJ諸氏にとっては口惜しく恨めしい存在、しかしながら彼のヒット曲”Spectrum”の前にはそんな思いもただただ涙にかき消され。一方でAurtasさんと言えば日本人離れしたプロダクション、リミックスワークのハイクオリティさ、楽曲がNick WarrenのMix CDに一度ならず二度までも収録されてしまうという大物さ、そして「ア、アウルタス?え、オータスって読むの?」というその名義の読みにくさという三拍子揃ったアーティスト。本作はそんなZeddの曲をそんなAurtasさんが勝手にリミックスしたブート盤。オリジナルのメロディラインと美しいボーカル、そしてそれを支える確かなトラックワークが織り成すこの曲を聴き終える頃には目がかいた汗で目の前のものが見えにくくなります。発売されないのが勿体ない「本物」のトラック。