先日発売されたばかりのTraktor Kontrol S4を買ってみました。
Traktor Kontrol S4とはNative Instruments社のDJソフト、Traktor Pro用コントローラの新製品です。
これまでNI社純正のコントローラはDJミキサーの補助として使うことを想定して作られたTraktor Kontrol X1がありましたが、本製品はそのX1の技術を継承しつつTraktor Proの備える機能のほぼすべてにアクセスできるトータルコントローラとして発表されたもの。
僕はこれまでDJソフトとしてRane社のSerato Scratch Liveを使用してきました。
SSLの良さは大きく2点。圧倒的なソフトウェアの安定性と波形の視認性。
前者は即ち、MacであればCPU800MHz/メモリ512MBというロースペクマシンでも動作する上画面がフリーズしても絶対に音は止まらないこと。音が止まったら即アウトな現場DJにとってはこれは非常に重要な点です。
もう1点は、画面に表示される波形を高音、中音、低音という音域ごとに色分けすることで、プレイしているトラックの展開が手に取るようにわかること。これによってミックスする際も非常にきれいに展開を作りやすくなります。
そんなSSLと双璧をなすTraktor Proのメリットは、高精度高音質という点と多彩なエフェクトを搭載している点という2点。
SSL3が24bit/48kHz対応であるのに対し、24bit/96kHzという高音質設計。(もちろんオーディオインタフェースに依存する部分もありますが)
さらにコントロールCD/Vinylのタイムコードの解像度が高いため非常に精度の高い操作が可能です。
また内蔵エフェクトも多彩で、持ち前のヒートシンク機能を最大限活用したエフェクト使いが可能になるのもTraktorの魅力。
こんな各製品の特長のせいか、どうやら世間一般では徐々にSSL=Hip Hop系、Traktor=Techno/House系という住み分けがなされているそうです。
さて、ではなぜ今回僕がSSLからTraktorに乗り換えようと思ったか。
1つは、Traktorがミキサー機能を内蔵している点、つまりDJミキサーが不要になるところです。
アマチュアDJの僕は時々友人に頼まれて結婚式二次会等でDJすることもしばしばあります。ただ、その二次会会場はDJ機材なんてなんにもないことがよくある。大昔はわざわざターンテーブル2台とCDJ2台とミキサーとレコードとCDを持ち込む、なんていう荒業をやってみたりしたこともありましたが、PCDJになってからは荷物の量が激減。とはいえSSLを使用している以上ミキサーは持ち込まねばならんわけです。で、僕が自宅で使っているPioneerのDJM-600は約7kgある。ヘトヘトになるわけです。
もう1つは、いい感じのMIDIコントローラが欲しかったこと。SSLを使う際、僕はコントロールCD/Vinylを使いません。その理由は後述しますが※、選曲、選択した楽曲の再生、停止、ピッチシフト/ベンド、キューの設定等々、PCのキーボードから操作してもあまり苦労がありません。というかむしろそっちの方が快適。(キーボードカバーは必須ですが。)
ただ、これらは全てボタン系の操作、もしくは急激な変化を必要としないフェーダー系操作です。問題はエフェクト等のノブ系操作。SSLもTraktorに対抗してか、最近エフェクト機能を搭載するようになりました。しかしこの操作をキーボードから行うのはさすがに大変。iPhoneにMIDIコン系アプリを入れて操作もしてますが、画面設計&設定等が結構大変。次第にいい感じのMIDIコントローラが欲しくなってきました。
※コントロールCD/Vinylを使用すると各クラブに設置してあるCDプレイヤーやターンテーブルに操作性が左右されてしまうことが大きな理由です。例えば、CDプレイヤーはPioneer製CDJシリーズが置いてあればいいんですが、American AudioのヘンテコCDプレイヤーだった場合は操作感が微妙だったりします。またターンテーブルは大抵TechnicsのSL-1200シリーズですが、機器によっては回転が安定しないことも往々にしてあり。さらにピッチ合わせの精度もそれぞれの機器に依存してしまいます。
こんな悩みを抱えているときに飛び込んできたのがTraktor Kontrol S4のニュース。「これはいいかも!」と飛びついた次第です。
というわけで購入してしばらく使ってみたのでそのオレ流レビューを。
結論から言うと、Traktor Kontrol S4はクラブ向けの製品ではありません。特に、超大御所ならいざしらず、様々なサイズのクラブ、パーティに呼ばれて他のDJと一緒にプレイするDJにとっては現実的な選択肢ではありません。
その最大にして唯一の問題は、サイズ。デカすぎます。
PioneerのハイエンドミキサーであるDJM-2000と比較してみると、DJM-2000は幅430mm*奥行き409mm、それに対してS4は幅500mm*奥行き322mm。DJM-2000よりも幅がデカい。
ミキサーとターンテーブル2台、CDプレイヤー2台が設置されているクラブのDJブースのどこにこんなデカいコントローラを設置する場所があるのか(笑。
さらにS4のオプションであるフライトケースなんて言わずもがな。ラップトップコンピュータを乗せる部分は一見良さげですが、スライドすると奥行きも結構なもの。もはや設置は不可能です。
従って、例えば自分がオーガナイズするパーティでオープン前からミキサーやターンテーブルの機材の配置を自分で決めることができ、さらに他のDJもその配置を承諾する場合ならいざしらず、そうでない場合はただただ迷惑です。
しかし、自宅で使用する機材としては素晴らしい。
そもそもS4はMIDIコントローラ兼オーディオインタフェース兼DJミキサーなので、自宅にある様々な機材はこれ一つで代替可能です。
現に我が家にあったDJミキサー(DJM-600)、2台のCDJ(CDJ-100S、CDJ-200)、さらにオーディオインタフェース(M-Audio FireWire Audiophile)はS4の導入により不要になりました。
フェーダやボタン等の作りも非常にしっかりしており、いい感じです。
というわけでS4を購入される方は上記の点に注意して検討された方がいいと思います。
以下にTraktorのソフトウェアも含めた長所、短所をまとめてみました。
- いいところ
- ハードウェア
- フェーダーやボタン、ノブ等の作りが非常にしっかりしており操作感、耐久性ともに良い。そして見た目がカッコいい。
- ソフトウェア(Traktor Pro S4)との高い親和性を誇るボタン配置。
- 3chと4chは外部入力に対応。Line/PhonoどちらもOKで、さらにターンテーブル接続用のアースも搭載されているためターンテーブル接続も問題なし。SSLのケーブルをここに挿せばTraktorとSSLの併用も可能。(意味ないけど)
- 外部入力に対応することでDJミキサーとして機能。従ってDJミキサー、CDJ、オーディオインタフェースはこれ1台でOK。部屋の機材がコンパクトに。
- 音質。FiireWire Audiophileよりも良い感じ。
- フィルター機能が他のエフェクトとは独立して存在。
- ソフトウェア
- SSLに比べてエフェクトが豊富。
- トラック検索時の一覧画面におけるフォントサイズや行の高さを細かくカスタマイズ可能。
- トラック検索画面にiTunesのレートが表示される。
- 悪いところ
- ハードウェア
- デカい。DJM-2000よりデカいなんてどんだけだよ……。
- フライトケースは使い物にならない。むしろどういうDJブースなら置けるのか教えて欲しい。引っ越し用か。
- オーディオインタフェースとして中途半端。例えばiTunesで再生する音をS4経由で出力する場合、Master Outからは当然出力されるがMonitor Outからは出力できない。つまりiTunesで鳴らす音をヘッドホンで楽しむには出力先を内蔵スピーカーに変えてPCに直接ヘッドホン挿すしかない。
- ソフトウェア
- ブラウザ画面でiTunes Libraryをインポートできるのはいいが、カバーアート、キーが表示できないので使いものにならない。
- ソフトウェアを起動した際、各デッキがクロスフェーダーに勝手にアサインされる。クロスフェーダー使わない僕はいちいち環境設定開いてクロスフェーダー表示させてアサイン解除してから環境設定でクロスフェーダー非表示にする、って作業をしなきゃいけない。
- サンプルデッキに登録できる音源の長さに制限がある。普通のトラックの一部分だけループの設定してサンプルデッキから呼び出せると思ったのに!
- 波形が単色。これ、早くSSLを見習うべき。
- プレイリストをテキスト/CSVで出力できない。これ、早くSSLを見習うべき。
- 仕方がないところ
- 外部入力の音源にもエフェクトは利用可能だけど、当然beat syncはしないのでDelayとかは変な感じに。
- Traktorのソフトウェアを起動しないとDJミキサーとして機能しない。(ただのオーディオインタフェースもしくはMIDIコンになってしまう。)
- Master Outのボリューム下げるとスピーカーから出る音もUstreamで配信する音も両方音量下がっちゃう。部屋では静かにしながら配信したい時だってあるのに!(もうちょっとオーディオインタフェースとしての機能拡充を求む。)
- Master Outの出力をUSBからPCに戻せない。つまり1台のPCでUst配信する場合はMaster OutからオーディオケーブルでPC側のオーディオ入力に戻す必要あり。
というわけで僕は依然現場ではSSLを使い続けると思います。iPhone & Touch OSCでの操作も限界だからKORGのナノコンでも買おうかなあ(笑。[tmkm-amazon]B0041GJRNA[/tmkm-amazon]
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