TPPは日本の尻を炙る火だ。


菅総理が2010年10月にTPP参加に向けた検討を始める旨発表して以降、TPPに関する議論が盛んになっています。
僕の思想は基本的にリベラリズム寄りなので、自由貿易には賛成の立場です。
それよりなにより、現在の日本を覆う停滞はTPPのような劇薬を投じて火事場のクソ力を発揮するしか道がないのではないか?と考えることがTPPに賛成するもう一つの大きな理由です。

日産は80年代〜90年代にかけての販売不振により倒産寸前にまで追い込まれたことをきっかけに、外資を受け入れ外国人を社長に据えてV字回復を実現しました。
韓国は97年のアジア通貨危機によってデフォルト寸前にまで追い込まれたことをきっかけに、構造改革を推進して現在では韓国製品が世界を席巻するまでに至りました。
このように「マジでヤバい」ことを個々人が肌身に感じなければ、もしくは「マジでヤバい」ことを肌身に感じたトップが独断専行で行わなければ、抜本的な構造改革は不可能だと思います。
逆に言えば、TPPという焦燥感、危機感に駆られることによって、日本は長期停滞を脱却する可能性を見出すことができるのではないでしょうか。

もう少し具体的に考えてみます。
例えばTPPに反対する議論の論点として、「安価な農作物の輸入により日本の農業が壊滅する」「安価な労働力の流入により日本人の職が奪われる」というものがあります。

まず前者について。
確かに関税を撤廃し安価な農作物が輸入されるようになれば、日本の農業は壊滅的な打撃を受けるかもしれません。
しかし、だからといって高率の関税と農家戸別補償によって延命措置を施し維持することによって、日本の農業に華々しい未来が来るのでしょうか。
そもそも、ちきりんさんのブログ記事「農政に見る民主主義の罠」にあるように、日本の農業、特に米作農業は歪んだ状況にあります。
7割以上の農家の年間農業所得は年間総所得の1%未満に留まり、大規模農家の半分の生産性で農作物を生産している。そんな儲からず重労働な農業をなぜ続けるかというと、補助金と節税のために土地を「農地」として保有する必要があるから。
このような農業を延命させることは果たして是なのでしょうか。
それよりもこのような零細農家の土地を統合して大規模化し生産性を上げて低価格化を進めると共に、他国製品よりも高い品質を確保して高付加価値化した方が農業復興につながるのではないでしょうか。
(ちなみに農家戸別補償制度によって我々国民が割を食ってる状況を、かの有名な「天才経済中学生」西田成佑さんが自身のブログ記事「農業補助金によって安くなった野菜は消費者の利益になるのか」で分かりやすく説明しています。)

そして後者について。
そもそも安価な労働力に奪われるのはどのような職でしょうか。
単純労働であれば日本人であろうと低賃金を受け入れなければ職を奪われるのは必然です。逆に言えばある程度の低賃金を受け入れれば、職の維持は可能です。
そもそも日本人には日本語をネイティブレベルで話せるというアドバンテージがあるし、新興国労働者の賃金も日本に出稼ぎに来ている時点で生活コストが上がり自国にいるよりは高くなっているため、「ある程度の低賃金」というのも現実的な水準に留まると考えられます。
一方でマネジメント職などの複雑労働(なんて表現はないかもしれませんが、単純労働の対概念として使ってみました。)であれば、新興国の労働力でさえ高賃金で雇用されます。しかしその職を確保するには英語でのコミュニケーションは必須。さらに自律的に行動し大きい責任とストレスに耐えるタフさが必要です。これらを獲得すれば、日本企業での職のみならず現地企業のマネジメント職など、今以上に職の選択肢は広がります。

そもそもTPP等が目指す自由貿易の目的は、池田信夫氏も指摘するように「工業製品の輸出拡大」ではなく「自由貿易を通じた国際分業の推進による資源配分の効率化」です。比較優位に基づき国際分業を進めることで、全体的な生産効率が改善されます。
そして「効率的な資源配分」は時代と共に変遷します。国だろうが企業だろうが、この変遷に応じて自らの事業構造産業構造を変革していくのは当然のこと、日本もこれまで第一次産業から第二次産業、そして第三次産業と主要な産業をシフトしてきたし、アップルもパソコンから携帯音楽プレイヤー、携帯電話とコンテンツ配信に主要な事業をシフトしてきました。
時代に適合した事業を行わなければ淘汰されるのは当然ではないでしょうか。

いずれにせよ、強者になる見込みのない弱者をいつまでも保護することは現実的に不可能です。
仮に弱者保護をするのならば、弱者が強者になるための成長策も同時に講じられなければなりません。もし成長の見込みがなければ、弱い分野から強い分野にシフトするしかありません。
闇雲な弱者保護は誰も幸福にはしません。

長期停滞が20年近く続き、少子高齢化に伴うデフレの進行と政府債務の拡大に歯止めがつく見込みがない昨今、日本は変わらなければならない状況にあります。
それは教育然り、産業構造然り、雇用慣行然り、国民の意識も然り。
TPP、というよりも台頭するアジア新興国が日本に突きつける焦りで、日本が構造改革を遂げ再び強い国になったらいいなと思う今日この頃です。


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です