日本発、海外。

日本発、海外。


Crystal KayやBENIがNHKの番組で「海外ツアーとか行きたい」「『次はロンドンなんだー』なんて言ってみたい」と言っていました。インターナショナルスクール出身の彼女らはネイティブのように英語を話し、またその歌唱力はそこらのJ-POPアーティストとは比べ物にならないと思います。それはほとんど欧米のR&Bシンガーと同レベル。洋楽好きな僕は「ようやく日本にもこういう歌手が出てきた!」と喜んだものです。でも海外からの需要は今のところない様子。

一方、別の回に登場した井上ジョー。正直、僕にとって名前を聞いたのもテレビで見たのもこれが初めてでしたが、その番組で映されたのはブラジルのライブで物凄い量のオーディエンスを前にライブパフォーマンスを繰り広げる姿。Wikipediaで調べたところ、彼はアニメ「NARUTO」の主題歌を歌っているそうです。

グローバリゼーションとはなにか。
どうやらビジネスの世界とアートの世界ではグローバリゼーションの波への対応の仕方が異なるようです。

ビジネスの世界では、グロバリデーションへの対応とはすなわち欧米の世界に合わせていくこと。世界標準に適合していくこと。
英語を話し、ロジカルシンキングを駆使し、世界中のどの都市にある拠点でも、同様の仕組みを導入し、同様にマネジメントしていく。もちろん各地域の文化や習慣に合わせてマネジメントの仕方やシステムは微妙にカスタマイズするものの、基本的には全世界で同質化させていく。
Appleの製品やそのマネジメントはまさにその最たる例と言えるでしょう。国によって製品仕様は全く変えず、完全に同じ製品を提供する。コミュニケーションスタイルも同様。表現する言語は違えど、CMの雰囲気やApple Storeのイメージなどはどの国に言っても全く変わりません。サプライチェーンのマネジメントもSAPで全世界の在庫量を可視化する。
つまりビジネスの世界におけるグロバーリゼーションとはベストセラーのタイトルにもある通り「世界のフラット化」です。

一方クリエイティブの世界ではどうか。
Crystal KayやBENIのスタイルは、ビジネスの世界におけるグロバーリゼーションでは正解です。グローバルスタンダードに合わせている。しかし問題は、「クリエイティブの世界にはスタンダードがないこと」です。今僕が使った「グローバルスタンダード」という言葉。これはどちらかというと欧米スタンダード、より厳密に言えばアメリカンスタンダードを示唆しています。しかしクリエイティブの世界はそれだけではない。ロックやR&Bの世界、ボサノバやアフリカンミュージックの世界、シンガーのマーケットだけでそれは無数にあります。

要するにCrystal KayやBENIはアメリカ発祥のアメリカンシンガーのマーケットで勝負しようとしている。
日本で勝負する分には問題ありません。「日本の中のアメリカ的R&Bシンガー市場」では競合がほとんどいないため、競争に勝ちやすい。しかしそのマーケットを「欧米のアメリカ的R&Bシンガー市場」に移したらどうか。途端に競合が無数に増え勝ち上がるのが難しくなります。
一方日本のビジュアル系ロックバンドやアニメの主題歌を歌うシンガーは、完全に現代の日本のポップカルチャーを体現する存在です。ビジュアル系バンドやアニメ主題歌などの文化は日本が発祥であり、このため世界を探しても日本人以上にこの分野に適性のある人はいません。従って、日本で勝ち上がれば自動的に他国のマーケットにも進出できる。このでの問題は他国にマーケットがあるかどうか。幸いジャパニーズポップカルチャーは世界中至るところにコアなファンがおり、ある程度の規模のマーケットが存在します。

戦略の第一歩は戦場を選ぶこと。
市場は細分化すればするほどどこかに自分がトップになれる分野を創りだすことができます。30代で日常会話レベルのインドネシア語が話せて趣味がDJの独身男性は日本人で僕ぐらいしかいません。しかし市場を細分化すればするほど自分がトップになれる可能性が上がる一方、当然市場規模は小さくなります。先の市場では僕は容易にトップになれそうですが、ただ「30代、日常レベルのインドネシア語可、趣味DJ、独身、日本人」という市場にどの程度の意味があるのか、どの程度の人が惹かれるのか。要するに戦場の選択は、競争優位性と市場規模のバランスが取れるところで決まる。
この意味で、Crystal KayやBENIが今のポジションを築けているのは「R&Bシンガー市場」を「日本のR&Bシンガー市場」にまで細分化したからであり、井上ジョーがブラジルでライブができるのはブラジルに「J-POP市場」があったからです。

「世界に出るためには日本らしい部分を極めるべし」というある意味皮肉な結果が炙りだされたこの対比はグローバリゼーションを考える上で非常に面白いサンプルだなあとテレビを見ていてなんとなく思いました。

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