時間を圧縮する。

先日、と言ってももうかなり前の話ですが、ソフトウェア大手のSAPジャパンに39歳の福田譲氏が就任したとのニュースを目にしました。
記事を読む限りでは彼はMBAホルダーでもコンサル出身のプロ経営者でもなく、SAP生え抜きの人材のようです。その生え抜きの人材が入社して10年で新規事業を統括するポジションを任され、そして入社して20年も経たぬうちに社長を任せられる。こんなことは、少なくとも僕が今勤めている会社では考えられません。
たかだか20年弱の間に彼はどういう成長をしたのか。当社はなぜその速度で人材を育成できないのか。

仕事においてもそれ以外についてでも、単位期間当たりの成長速度を上げるために必要なのは、「時間の量」と「時間の質」、つまりどれだけの時間をその能力開発に投下したか、その投下した時間でどれだけ質の高いトレーニングを受けたか、の2点に収斂すると思います。
「10000時間の法則」を引き合いに出すまでもなく、通常は時間を費やせば費やすほど上達するはずですし、我流で闇雲に練習を繰り返すよりもいいコーチの指導の下で練習した方が上達は早いはずです。

しかし、その時間の「量」と「質」を確保するのは簡単ではありません。

仕事にしろ趣味にしろ、自分の能力開発にどれだけの時間を投下できるかは人によって異なります。1日は24時間しかなく、それを様々なアクティビティに配分していくしかないからです。
一般的な会社員であれば1日の1/3は仕事に、1/3は睡眠など、残りの1/3はテレビを見たり趣味に費やしたりするのだと思います。例えばこの残りの1/3を全て仕事に振り向けてみると、それは大雑把に言えば1日16時間勤務することであり、過労死する水準になってしまいます。1日16時間を仕事に割くのは少々極端な例で、仕事に関連する能力開発に繋がるのであれば仕事以外のことに時間を割いても構わないのですが、他にも自分のためでなく家族のためにも時間を割かなければならなかったり、割く時間はあるがやる気や情熱が続かないなど、人が自分の成長に使える時間を十分に確保するのはなかなか簡単ではなさそうです。

一方、時間の質を上げていくのも簡単ではありません。
人の成長が多くの場合困難への対処や失敗の経験によってもたらされるのだとするならば、質の高い経験とは、平たく言えば「ライオンの親が子を突き落とす谷底」と言えるかもしれません。つまり、自分の能力以上を期待されるような職務や役職に就くとか、高い業務目標を掲げること、それを通じた困難や失敗です。このような状況に自分を追い込むことができれば時間の質を高められるはずですが、組織内の人材配置は当然自分が自由にできるものではありませんし、後者も業績評価や給与に関係するため必要以上に高い目標を掲げるのは案外難しいものです。
一方、会社側も最近は若者を責任あるポジションに就けたがらなくなっているように思います。何か問題が発生した場合は抜擢の理由を問われてしまいますし、またストレッチさせすぎて本人の健康を害してしまうのも本意ではありません。さらに昨今は少子高齢化や不景気の影響で組織の人口ピラミッドの構造が逆三角形になりつつあり、抜擢しようにもポジション自体が不足している、などという状況になりつつあります。

ではどうすればいいのでしょうか。

これまでそうした人材育成をしてこなかった企業にとって、そもそもこのような人材育成の短期化にメリットがあるのかどうかはわかりませんが、もし短期育成を図りたいのならば、進む方向性は冒頭で述べたSAPのような外資系企業あたりになりそうです。また、例えばサイバーエージェントのように若手を抜擢する仕組みのある会社も短期に人材を育成できるのではないでしょうか。

一方、個人としてもやれることがいくつかありそうです。
1日の中でダラダラしている時間や有効活用できる時間は実は結構あって、これをちょっと削っていくだけでも相当の余剰時間は生み出せます。例えばテレビを見る時間を減らしてみるとか、通勤時間を有効活用してみるとか。そうでなくても、体力と精神力をある程度鍛えておけば、徹夜は大変でも40歳までは健康を損なうことなくそこそこの時間数を労働や自己研鑽に投下できます。つまり健康維持とストレスコーピングの技術を持っていれば、自分が使える時間量を増やすことが可能になります。
質に関しては、人材配置を自分でコントロールすることは難しくても、ひとまずなんでもチャレンジしたり引き受けたりしてみるのは一つの手と言えそうです。なんでもかんでもやりますやりますと言っていればいつかは仕事量が溢れます。それはそれで一つの困難、成長のきっかけです。雑用的な仕事を大量に引き受けて自分を追い込むのも手ですが、「雑用ばかりやってても成長できない」という意見も理解できますので、難易度の高い仕事を選べるのであれば雑用を断りそちらにフォーカスするのもありでしょう。
また本社から地域子会社や海外子会社などへの異動も、本社よりもポジションが上がり裁量が増え所掌範囲が広がる、つまり激務になることが多いため、非常にいい経験になると思います。
他にも学校に行ってみたり、NPOやNGOの活動に参加してみるのもいいかもしれません。青年海外協力隊や東日本大震災の復興ボランティアなどはいい機会なのではないでしょうか。

以前の僕は冒頭のニュースを見ても「まあかなり歳上の人だしな」と流していましたが、最近徐々にそうも言っていられない年齢になってきました。例え短期間で成長できなかったとしても、「長い時間をかけても成長できなかった」なんてことになるのはできれば避けたいので、上述したようなことを地道に頑張ってみようと思います。


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