どうやら大卒者の内定率が氷河期を下回ったらしいです。
そんな状況を受けて「卒業後3年間は新卒!」などと政府は言い出している。
新卒至上主義的雇用慣習がおかしいのに「新卒」の解釈拡大で対処しようとするあたりがなんとも、って感じだけれどもそれはさておき。
そんな中こんな記事を読みました。
この記事は現在の就職活動において、「学生」「企業」「大学」「親」という各ステークホルダーの感じていることとそのズレに着目したもの。恐らく典型的なエピソードを寄せ集めてデフォルメしたノンフィクション的フィクションだと思うけれども、これがほぼ事実に基づいているのだとするならば面白い。
中でも特に印象的だったのが人事部と学生のズレ。それを象徴するのが以下の言葉です。
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そうそう。別に創業年から製品名まで、全部暗記しろとかそこまで言っていない。最低限、どういう会社でどんな製品や事業が主力なのか、それくらい分かって欲しいよ
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昨今の学生は「内定」が目的化しているように思います。
先般見たワイドショーでインタビューを受けていた学生は軒並み数十社〜百数十社受けているとのことでしたが、波頭亮氏の言葉を借りれば「本当にやりたい仕事を考えたら何十社もエントリーできないはず」。
まあ波頭亮という特殊なキャリアを歩んだ人に今の学生の苦労がわかる気もあんまりしませんが、その一方で正論だとも思います。
いや、確かにそもそも「本当にやりたい仕事」なんてものはわからない、わかれば苦労しない。それが本音。だって学生はまだ仕事したことないんだから。
とはいえ。働くに当たって考えなければならないことが色々あることも事実だと思います。
さて、唐突ですが結婚と就職は共通項が多いと思います。
どちらも結局は「縁」だったりするし、する前に色々想像してみるけれども結局のところしてみないとわからない。
そしてどちらも転職/離婚の増加により流動化してるけれども、まだまだお互いに長期雇用を前提に考えている。
価値観のすりあわせ、相手を見極める場である面接はある種のお見合いです。
就職を結婚になぞらえてみると、学生の就職活動はとても奇異に映ります。
意中の人が誰だかもわからず、その人と一生ともに連れ添う覚悟があるわけでもなく、ただただ「結婚」のみを目的として何十回何百回もお見合いを繰り返す。
面接をお見合いに置き換えてみると、面接での1シーンは下記のようになるのではないでしょうか。
学「あなたのことが好きです!結婚してください!」
社「なぜあたしなの?あたしのどこが好きなの?」
学「いや、うーん、なんだろ、あなたの……雰囲気?でしょうか?」
社「雰囲気って?」
学「いや、その……『自由闊達な正確』ってプロフィールには書いてありましたし……」
社「うん、言ったけど、具体的には?」
学「え、具体的……?」
社「じゃああなたはどういう人なの?」
学「僕は大学に入って部活とアルバイトを頑張りました!」
社「例えば?どう頑張ったのか知りたいわ。」
学「いや、えーと……」
まあ上記の会話は若干誇張が含まれているけれども、この会話がマズいのは誰にでもわかります。
そもそも「おれはお前が好きなんだ!」ってことを相手にちゃんと理解してもらえなければ口説けるわけがない。
それをちゃんと理解してもらうには、「自分はこういうタイプの子が好き」「君だからこういうタイプだからぴったり!」という2点を主張しなければならないはず。
前者は自己分析、正しい自己理解。後者は企業研究、正しい企業理解。これなくして意中のアノ子をモノにできるわけがない。
企業だって自分のことをよく理解していない学生からの求婚なんて受ける気にはなりません。
そこで思い出されるのが先程の人事担当者の一言。
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そうそう。別に創業年から製品名まで、全部暗記しろとかそこまで言っていない。最低限、どういう会社でどんな製品や事業が主力なのか、それくらい分かって欲しいよ
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別に自分の小中高大の経歴全てを暗唱して欲しいなんて思わない。親兄弟の人数とか誕生日とかを暗記して欲しいとも思わない。
ただ、自分という人間を最低限理解して欲しい。どういうところに魅力を感じているのか教えて欲しい。
少なくともどういう製品が主力なのか、どういうサービスを生業にしているかぐらいは理解して欲しい。
企業はスペックを覚えて欲しいと言っているのではない。自分を理解してくれ、興味を持って欲しいだけ。
これから長い結婚生活を歩んで行く中で、自分のことを本当に好きかどうか、一番好きでないにしろ、ある程度好きでい続けてくれるかどうかを知りたいだけ。
一部の超一流企業はさておき、大企業も中小企業も多くの企業はこういうことを考えているのではないでしょうか。
ウチの会社だって、少なくともSIerと聞いて「主な仕事はプログラミングっしょ?」なんて誤解している学生が来たら、「あなたはあたしのこと全然わかってくれてないのね……そんな人の『お前が好きだ!』なんて言葉信じられると思う?」と思います。
この原因は、「就活のタスク化」だと思います。そしてみんなこの「タスク」を淡々とこなしている。
まあその前に先述した「新卒至上主義」という前提があり、それ故ほぼ同様のプロファイルを持った人間が特殊な専門職ではなく「総合職」「一般職」というような曖昧模糊としたほぼ同様のポジションにほぼ同時期に殺到するという点が根本的問題だとは思いますが。
ただそれを前提として「内定」をゴールとした「大量エントリー」というスタイルが定着してしまった昨今、学生の個々の活動は完全に「タスク化」してしまっています。
「就活本」という就活用参考書が大量に出回り、全てのアクションにマニュアルが提供される。
「自己分析」という終わりのない哲学的アプローチですらマニュアルに沿った定型作業になり、それ故大学の就職課に「やっぱり自己分析はすべきですか?」なんて聞いてしまう。
最近では自己PR文を自動生成する機能なんてものも登場したらしいです。(これ、ニーズがあるのはよくわかりますが、いくらなんでも自分で身悶えつつ考えておぼろげにでも答えを見つけていかなければらならない部分をITで効率化しちゃダメでしょ……と個人的には思います。)
そんな中「企業研究」も例外なく単純なタスクであり、企業のウェブサイトを見たり業界研究本読んだりして「勉強」するスペック偏重の暗記科目になってしまってる。
でも、繰り返すようですが「タスク」をこなすだけじゃ異性は口説けません。
ホットドッグプレスに書いてあるマニュアルを盲目的に信奉するだけじゃ気になるアノ子は口説けない。(「ひざを組み替えたら『アリ』のサインだ!」なんて言葉を信じて痛い目にあった男性諸氏がどれだけいることか!)
なぜ相手が「自分のことを好きな理由」を知りたがるのか、なぜそれを具体的に聞きたがるのか。なぜ「あなたはどういう人?」ということを聞きたがるのか、なぜそれを具体的に知りたがるのか。
必要なのは、マニュアルに沿ってタスクをこなしていくことではなく、ちゃんと相手の「キモチ」を考えてあげることなんじゃないでしょうか。
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