20歳のときに知っておきたかったこと (Tina Seelig)

最近「◯歳からの〜」や「◯歳までに〜」などの年齢縛り本が多い。
それはつまり「朝専用缶コーヒー」的なシチュエーション限定することで新たな需要創出やマーケット拡大を狙うものの類なんだろうけど、その大部分は「結局普通の缶コーヒー」であって別に「朝専用」かどうかはコンテンツにほとんど影響しないように思う。
どちらかという本書に対するイメージもそういう類ではあったものの、「Stanford」という言葉に惹かれたこと、装丁がキレイだったことからなんとなく購入。
逆に言えば、購入前に理解していたのは今挙げた2点とAmazonのレビューくらいで、正直今振り返ってもなぜ購入したのか謎。

しかし読後感は全く後悔なし。

本書はスタンフォード大学の起業家育成コースで教鞭をとる著者による、企業リーダーシッププログラムの集中講義をまとめたもの。
アントレプレナー育成を目的とした講座だけあって、その内容はいかに固定観念を打ち破り、失敗を恐れずチャレンジし、課題をチャンスと捉え、ルールを破り、イノベーションを起こしていくか、という点について様々な事例をもとに語られている。
上述したキーワードは案外耳タコ系の言葉かもしれないけど、それが実際講義の中で行われたワークショップや著者らの実体験をもとに丁寧に語られているため、とても説得力がある。

日本人はどちらかというとルールに縛られる民族であると思う。
それは敗戦→高度成長期を経る中でよくも悪くも価値観、ゴールイメージの統一が図られたからであり、その結果として多くの日本人のキャリアパスとその評価尺度=「幸福感」が統一されたから。
そしてその価値観の統一を促進すべく幼少期から多数派の価値観=常識に沿うことが美徳であると繰り返し叩き込まれるから。
(先日のカツマーvsひろゆき対談でその統一された「幸福感」が崩壊しつつあることが垣間見えたのが記憶に新しい。)

例えば。
小学校の読書感想文。
感想文を各対象の課題図書は常に与えられ、個々人に選択の余地はない。(あっても2〜3個)
さらに与えられた課題図書に対する個々人の感想=解釈にすら選択の余地はなく、「面白かった」「ためになった」という感想でなければいい成績がつかない。
別に宮沢賢治を「つまんない」と思う子がいてもいいはずなのに、物心つく前から「名著は誰がなんと言おうと名著である」という考えを盲目的に受け入れさせられる。

もしくは。
小学校の運動会で踊る踊り。
小学校の運動会では各学年ごとに決められた踊りを踊った。
なぜ踊るか、何を踊るか、どう踊るかはすべて教員から与えられ、何の選択肢もなくクリエイティビティを発揮する余地もなくただそれに従い踊る。
踊るというかただただ盲目的に決められた振付をなぞる。

ちなみにこれは小学校を卒業してから何年経とうと未だに鮮明に覚えている個人的経験。
僕は「なぜ踊るか」までは思いが至らなかったものの「何を踊るか」くらい自分たちで決めさせてくれと担任に嘆願してみた。
ところがそれに対して担任の先生は「それは屁理屈」で一蹴。
本当に僕の主張が「屁理屈」かどうかよくわからないまま「なんだかよくないこと言っちゃったのかな」と思い、結局僕はその決定を受容、釈然としないまま決められた踊りを踊った。

振り返ると結構小学校時代に多くの「人生こんなもんなのかな」的経験をしてる(笑。

そんな僕にとって幸運だったのは、中学高校の校風がイノベーティブだったこと。
「勉強はできて当たり前、それ以外で突出してナンボ」という気概を暗黙のうちに生徒全員が共有しており、何か突出する能力を持っているヤツはそれがどんな能力であれリスペクトされ、逆に小さくまとまっているヤツは相手にされない、僕が通った中高はそんな世界だった。
勉強がよくできるヤツは東大理IIIなんてザラだし、そうでないヤツでもウッドベースのセミプロとして活動していたり、プログラミングに長けていたり。
彼らは誰かに決められてそれらの修練に打ち込み突出したわけでもなく、それぞれが自分自身の責任と判断で自分自身の人生を好きなように生きた結果だったように思う。

本書、もしくは本書のもとになった講義は、アントレプレナーシップを育むことを目的としているが、本書で語られる内容は別に起業にしか当てはまらないことじゃない。
要は自分の人生自分の好きなように自分の責任と判断のもとでどう最大限好きなように生きるか、そんな人生哲学のエッセンスが散りばめられた本なのでは?と思う。

幸運な中学高校時代を過ごしてもなお、幼少期の記憶からかつい社会のルールや常識に沿う人生を歩みいつしかいい歳になってしまった自分にとって、「あんたの人生で大切なことって何よ?」と問いかけてくれ、ある種背筋にいい冷や汗をかかせてくれる本でした。

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