視点を提供する仕事。

海外赴任から復帰してからは、本社の人々が海外に事業展開するのを支援するお仕事をしています。
支援という立場なので、ここでは僕自身が手を動かすわけではなく、アドバイザーやコンサルタントのような立場でお手伝いをしています。具体的には、ビジネスプランニング支援、英語コミュニケーション支援、案件ドライブの3点が主なお手伝いの内容です。最も期待されているのが英語コミュニケーションで、本社の人々が海外に市場調査や売り込みに行った際、現地の移動手段を手配したり資料を英訳したりプレゼン時に英語で通訳するような係です。あんまり価値が出せるタスクではありませんが、本社の人々の多くは現地の勝手がわからないため、「慣れてる人がやってくれたら」と僕のような海外赴任帰りの人間は都合よくアサインされます。

さて、日本に帰国してから今日に至るまでの3ヶ月ほどの間に約10件程度のケースを支援していますが、振り返ってみるとそのお手伝いの多くは上述の期待、予想とは裏腹に、英語コミュニケーションではなくビジネスプランニングでした。要するに、市場調査や営業のために現地に行くより前の作業。ビジネスモデルを考えたり、事業に関する仮説を構築したりする部分です。

なぜか。

いくつか理由は思い浮かぶのですが、大きな理由の一つは、「日本での事業を海外に持って行く場合、多くのケースでビジネスプロセス/モデルがガラリと変わるから」だと思います。ターゲットとする顧客セグメントが大きく変わったり、製品の強み、訴求ポイントが全然違うものになったり。当たり前の話ですが、日本にあるものそのまま持って行っても通用しない場合が多いため、ビジネスモデルやプロセスのかなりの部分は考え直しになります。
例えば、日本である顧客向けに構築したシステムを海外展開する場合。日本では顧客の要望に沿ってオーダメイドに近い形でソリューション/サービスを仕立てた一方、海外で売る時には既に日本で構築されたソリューション/サービスを売ることになる。つまりここでビジネスモデルが「受注生産」から「既成品販売」に変わり、またそれに伴って人々に求めらるスキルセットも全く違ったものになってくる。上記の例で言えば、日本では「顧客営業」だった営業スタイルが、海外では「商品営業」になるわけです。大体の場合は「同じ商品だから」ということで、事業環境が変わっているにも関わらずビジネスプランも要員アサインも変えません。そのため、思うように物事が前に進まず、しかしその理由がわからない、という状況になる。

こういった本社の人々の悩みに対してアドバイスするのが僕の仕事ですが、手も動かさず外野から好き放題言う僕の価値ってなんだろうと、しばらく考えていました。
ふと思い浮かんだのは、「視点を提供すること」。

その視点とは、大きく3つあります。

  1. 角度
  2. 高さ


1つ目の「角度」は、見る角度を変えることによって今見えているものをキレイに整理する視点です。検討に網羅性が感じられなかったり、何から手をつけていいかわからない時、新しい切り口を用意してあげることで物事を整理します。ゴチャゴチャになっている引き出しの中身をスッキリさせるような感じ。入れ物も中身も変わっていないのですが、うまく仕切りで区切ってあげるだけでスッキリしたりします。これによって、足りなかったものや余計なものが見えてきたりします。

2つ目の「高さ」は、見えていないものを見せる視点です。「ロジックツリーを横/上に広げる」とも言われます。新たな可能性や解決策を探しているけど見つからないような時、より大きな視野、抽象度の高い視野、前段階の視野を提供することで視野を広げます。「日本ではもう市場が伸びず成長の余地がない!」という悩みに対し、「では日本以外は?」という視点を提供するようなイメージです。これによって新たな解決策や道が見えたりします。

3つ目の「色」は、バイアスを外す、または変える視点です。知らず知らずのうちに自分の中に出来あがっている「アタリマエ」は海外市場では当たり前ではなかったりします。「このサービス、絶対海外で売れると思うんですけど!」も「こんなもの、海外では売れませんよね」もファクトに基づいた仮説でなければただの思い込み、つまりバイアスです。また日本ではITシステムの価値は「効率化」ですが、海外、特に新興国では「効率化」というキーワードは顧客に全く訴求しません。こういったプロトコルの違い、前提条件の違いを洗い出してみたり、場合によっては無効化したりします。これによって、商品の新たな価値が見えてきたりします。

ちなみに、上記のうちの3番目「色」は海外赴任経験が活かせる部分ですが、1番目と2番目には海外赴任経験はあまり関係ありません。それでも、1と2の視点提供が赴任前より上手になったと自分でも思えるのは、やはり赴任期間中の周囲の方のご指導の賜物だと思います。一方で、言い方を変えれば1番目の2番目の視点は日本にいながらにしてトレーニングできる部分であり、こういう思考技術もグローバル人材に今後求められる能力なのだなあ、とプロジェクトのお手伝いをしながら思う次第です。

そんなわけで今はなんとかお給料がもらえているのですが、先述の通り3番目以外は海外赴任せずとも獲得できるもの、3番目も現地に住まずとも現地の様子を見聞きしていればわかってくるものなので、このスキルに頼って生きていけるのもそう長くはありません。
やっぱり早いところなにがしかの専門性を培わなければ……。


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