ベストトラック2014。

久々に日本に帰ってきて日本で生活したこの年、自分のライフスタイルが住環境の変化及び加齢に伴いどう変わるのか、という点に戦々恐々としていた一年でした。しかし蓋を開けてみると予め想像していたよりも案外僕のナイトクラブ行動力は衰えておらず、安心できた一年でした。突発的な海外出張があったりそもそもこんな僕にオファーをくれるような酔狂な人がどんどん減ってきているためDJする機会は少なくなりましたが、それでも相変わらずのBeatport巡りでDJ用トラックは収集しつつ、それ以外にもかつての自分であれば聞かなかったようなジャンルにも手を出してみた一年でした。
というわけで、いつの間にか毎月のディスクレビューをほとんど書かなくなった罪滅ぼしとして、今年の個人的ベストトラック達をご紹介したいと思います。

  1. Pharrell Williams / “Know Who You Are”
    恐らく自分が持っている全ジャンルの楽曲を総合して2014年最も聴いたと思われるのがこの曲。昨今は加齢に伴い僕がエンジョイできる音楽のジャンルが広がってきたので、なるべくルーチンのBeatport巡りでは見つけられない曲を聴くようにしてみたのですが、これもその中の一つ。”Happy”の世界的ヒットにあやかり自分もHappyになりたいと思い藁にもすがる思いで買ったこのアルバム、気づくと”Happy”ではなくこの曲が一番のお気に入りになっていました。恐らくこれは「おれも誰かに『あなたのことはわかってるから』なんて言われたいなあ」という自分の暗い承認欲求の表れだと思います。ちなみにもちろん”Happy”それ自体も素晴らしかったのですが、Soundcloudに雨後の筍のようにアップされていた”Happy”の非公式リミックスの中にもステキなものがいくつか紛れていました。最も好きだったのが”Happy (NEUS Remix)”。これはなんていうジャンルなのだかよくわかりませんが、カッコいいです。

    https://soundcloud.com/neus/pharrell-williams-happy-neus
  2. Michael Jackson feat. Justin Timberlake / “Love Never Felt So Good (DM-FK Classic Tribute Mix)”
    数々の先人偉人たちが惜しまれつつも天に召された2014年、クラブミュージックファンにとって最もショックだったのが”Godfather of House”ことFrankie Knucklesの逝去でしょう。数々のDJ、プロデューサー、そしてファンたちが彼の氏を悼みましたが、中でも最も悼んだのがDef Mix Productionsの盟友David Moralesだったと思います。本作は、そんなDavid MoralesがFrankieの死を悼んでFrankie的作風で作り上げた渾身のリミックス。その題材となったのは2009年にこの世を去ったMichael Jacksonが2014年にリリースした新曲。奇しくもMichaelに影響を受けたプロデューサーたちが復活させたMichaelの楽曲を、Frankieの死を悼むDavidがリミックスするというこの作品は、偉大なミュージシャンはその死後もなお人々に影響を及ぼし続ける様を見せつけているようでなんだかとても感慨深いです。ちなみにMichael Jacksonのアルバム”Xcape”に収録されている”Love Never Felt So Good”の色々なバージョンの中でも最も素晴らしいのは、作曲者Paul AnkaのピアノをバックにMichaelがソロで歌うOriginal Version。穏やかで多幸感溢れる素晴らしい一曲です。

  3. Sailor & I / “Turn Around (Ame Remix)”
    ポップミュージックがNo.1とNo.2を締めたところでようやくここでクラブミュージックをピックアップ。今年僕が一番聴いたクラブミュージックはやはりこれ。Sailor & Iと言えば2012年にリリースされた”Tough Love”のAril Brikhaのリミックスが尋常でなく素晴らしかったことが記憶に新しいですが、それに匹敵する素晴らしい楽曲が今年も、という感じです。今回リミックスを担当したのはInnervisionsからの刺客Ame。全体で8分ほどのランニングタイムのうち、前半4分はキックなしでボーカルを聴かせる「聴く」ためのトラック。DJとして現場から離れているがゆえの感覚の変質かもしれませんが、やはり印象に残る曲、好きになる曲はダンストラックとして機能して踊れる曲よりも美しいメロディを堪能することができる曲。中でも本作はボーカルもリミックスも素晴らしくって、本当にこれは何度も聴いたし何度も歌いました。確かクラブで聴いたことは一度もありませんでしたが。
  4. Herbert / “One Two Three”
    恥ずかしながらMatthew Herbertという人の存在を認識したのは今年でして、遅きに失しながらも2001年にリリースされた”Bodily Functions”を昨年あたりに初めて聴いて悶絶しつつも10年以上前にリリースされたトラックがこうも新鮮さを失わないことがあり得るのかと驚愕したのであります。というか10年前の自分ではちょっと理解できない類の楽曲かもしれないので、2001年にそのリリースを知っていても聴いていなかったかもしれません。いずれにせよ、そんなわけで今年はMatthew Herbertや、DJ Koze、Robag Wruhmeあたりを熱心にウォッチしていたわけですが(その割につい先日のRobag Wruhme @ Origamiはパスしてしまいましたが)、その中でも素晴らしかったのがこの”One Two Three”。Rahelさんという方のボーカルがとてつもなく素晴らしく映えるのもさることながら、なんだかよくわからない有機的な音色が折重なりつつも異常なまでに美しい世界を展開するHerbertの才能にはまさにぐうの音も出ません。
  5. Blue Mar Ten / “Somewhere (Frederic Robinson Remix)”
    ある年に聴いた曲を振り返るとその年の自分の精神状態が手に取るようにわかる気がします。今年はどちらかというとキレイな曲、ほんわかした曲、でも少し哀愁な曲を好む傾向が強く、そこから考えると要するになんか色々辛くって必死に癒しを求めてたんだなあとなんとなく解釈できるわけです。そんな自分にとっての素晴らしい出会いはFrederic Robinsonとのそれだったわけで。どういう人かは全く知らないのですが、一応Drum & Bass界隈の人の様子。しかしDrum & Bassもビートを半分にすればエレクトロニカと言えないこともないわけで、僕もエレクトロニカ的に聴いております。もう少しテンションがアガる感じのヤツだとFred V & Grafix(この人たちも素晴らしいアゲアゲDrum & Bassを作る人たちですねえ)の”Major Happy (Frederic Robinson Remix)”も素晴らしい感じ。そしてもう少し哀しい感じのヤツだとFrederic Robnson / “Mixed Signals (Synkro Remix)”あたりも素晴らし過ぎてヨダレが止まりません。部屋の明かりを全て消して部屋の隅に体育座りをしながら聴きましょう。


  6. Billon feat. Maxine Ashley / “Special (Nu:Tone Remix)”
    Frederic Robinson以外のDrum & Bassはというと相変わらずHospital Recordings系のナイスな楽曲を聴くことが多かったです。Drum & Bassというジャンル自体はハウスミュージックと同じでビートの様式に定義されるジャンルであって、それ故他の色んなジャンルを包含できるのが特長ですが、今年は世界的なEDMの盛り上がりを受けてDrum & BassもEDM的な楽曲が多いような印象、特にDanny ByrdやRameses Bあたりの楽曲はEDM的でありながら多彩で楽しめました。相変わらずこのBPMでどう踊ればいいのかわかりませんが、元気な時はこういうアゲアゲ且つアゲな楽曲も心地よい感じ。その一方でNu:Tone君は少し生音っぽい、ソウルフルなトラックを作るのが上手な印象で、今年のD&B代表として選んだこの曲もその一つ。耳に優しい生音っぽいリズムトラック、そして少しIndiaを彷彿させるソウルフルなボーカルと、Masters At Work好きには好まれそうなナイスなトラックです。
  7. Dubfire feat. Miss Kitten / “Exit”
    今年も相変わらずクラブには色々行くものの、同じジャンルを好む人どころかクラブに行く人間も周りからどんどんいなくなっている今日この頃、もはやageHaシャトルに一人で乗ろうがZoukOutに一人で行こうがあまり気にならなくなってきました。そんなクラブ通いの中で今年感じたのが、テクノハウス界隈のクラブミュージックが「オーバーグラウンド」と「アンダーグラウンド」の2つのジャンルに収斂してきていること。昔はディープハウスとかプログレッシブハウスとか色々ありましたが、今はこの2つしかありません。前者はEDMを代表とするフェス向け音楽で、トランスとかダブステップとかトラップもここに含まれます。このジャンルのアーティストによるパフォーマンスは既にDJではなくライブで、それを楽しむ場ももはやクラブではなくライブ会場です。後者はディープハウスからテックハウス、テクノなどを包含するジャンルで、このジャンルのパフォーマンスはどこまでいってもDJ。しかしもはやRichie HawtinとDubfireと木村コウさんとQheyさんが同じ場所にいると言っても過言ではないほどジャンルの収斂が進んでいる。というわけで「アンダーグラウンド」側の代表曲がこれ。Dubfireはシンガポールで開催されたアジア最大級のビーチフェスZoukOutでもこの楽曲をプレイしていたのですが、首を振り過ぎて筋肉痛になるくらいのカッコよさ。
  8. Kevin McKay / “Everythings A Dream”
    アンダーグラウンド側でもう一人注目アーティストを挙げるとすれば何を隠そうMaya Jane Coles。この人は既に2012年頃の段階でブレイクしていたと思いますが、何分僕のリスニング傾向が保守的なもので最新のトレンドをキャッチアップするのになかなか時間がかかってしまいます。UK出身の若い女性DJである彼女はもちろんアンダーグラウンド側の住人なのですが、どちらかというと多くのアンダーグラウンド側DJがRichieやDubfireに代表されるように疾走するベースラインでぐいぐい持っていくテクノに傾倒する一方、彼女はハウス魂をきっちり維持しているのが特色のように感じています。2日間に渡って開催されたシンガポールのZoukOutでも、Richie Hawtin、Dubfire、Nina Kravizなど錚々たる面々が顔を揃えたサブステージで最も素晴らしいパフォーマンスを見せたのが彼女。(逆にダメだったのが出だしをトチッたNina Kraviz。)その翌週WOMBでもプレイしたので確認のために行きましたが、やっぱり素晴らしいプレイでした。そんなMJC、自身もアーティストアルバムのリリース等もしていますが、「彼女の楽曲」として一番印象に残っているのがZoukOutでも12月のWOMBでもプレイしたこの楽曲。自宅で聴いてもカッコいいこのベースラインがクラブでは凶器に変わります。
  9. Rauwkost / “Feelin Good”
    Maya Jane Coles体験により奇しくも自分の音楽の好みを再確認するに至ったわけですが、その好みというのが「美しくて」「哀愁で」「そんなにベースでグイグイ引っ張る感じじゃなくって」「ハウス魂があって」みたいなところでして。今のところこの感覚にぴったりハマるのがMaya Jane Colesであり、依然僕の中ではスーパーヒーローのSasha。このトラックはそんなSashaも2014年暮れにヘビープレイしているトラックで、ニューディスコっぽさをのぞかせながらもあまり黒くなりすぎずに淡々と展開していく様がとてもお気に入りです。Sashaの好むトラックにはこういう「キックとハットがはっきりしてる感じ」の曲が多いように思うのですが、それ系だと最近はDeaf & Pillowというアーティストがお気に入り。あまり展開がない淡々とした楽曲を作ることが多い人達ですが、Fran Von Vie feat. Cio May / “Lonely Nights (Deaf Pillow Remix)”あたりはそういう淡々とした感じが逆にかっこ良かったりします。

    https://soundcloud.com/deafpillow/fran-von-vie-lonely-nights-feat-cio-may-deaf-pillow-remix
  10. Zedd feat. Matthew Koma & Miriam Bryant / “Find You (Exige Piano & Launchpad Cover)”
  11. そんなアンダーグラウンド勢に対して、オーバーグラウンド側の音楽シーンは拡大の一途を辿っており、超大規模フェスUltra Music Festivalがついに日本に上陸したのも2014年のビッグニュースの一つに挙げられると思います。これだけ大規模なフェスの興行が日本で成功するのはそれはそれで素晴らしいことだと思いますが、やはり僕が違和感を感じたのは「これはもはやクラブカルチャーではない」という点。いや、単純に気分の問題で、ライブに行ったと思えば違和感はないと思うんですが、やはりクラブに行くつもりでフェスに殴り込むと「あれ、そういう感じなの?」と一抹の違和感を感じ、有名な曲がかかる度に万単位のオーディエンスが合唱する様子に疎外感を禁じ得ません。というわけでオーバーグラウンドカルチャーに自分の居場所がないことを痛感するのですが、しかしそれはオーバーグラウンド側のトラックが全て肌に合わない、ということを意味するわけではなく。やっぱりいい曲はいい曲であり、中でもZeddくんの曲は素晴らしいダンス歌謡曲として成立していると思います。この曲はそんなZeddくんの比較的新しめのヒット曲”Find You”をExigeという人がカバーしたもの。イントロのピアノソロから中盤でEDMに展開する様子が天才的。PianoとLaunchpadを演奏している様子は単純に見ていて楽しいので是非Youtubeでチェックを。

「他ジャンルにも手を出した」と言っておきながらこのランキングに挙がっている楽曲のジャンルがあんまり代わり映えしないのは、僕の他ジャンル審美眼がまだまだ甘いからだと思います。ただ、引き続きこうして音楽に興味を持ち続けられていることは幸せですし、それが広がっていることも幸せです。来年も貪欲に音楽を聴いていこうと思います。


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