「ニーズと規制」のデジャヴ。

『島耕作』シリーズで知られる漫画家・弘兼憲史氏や、作家の東野圭吾氏、『北斗の拳』の原作などで知られる武論尊氏らが2011年12月20日、書籍をスキャンして電子ファイルを作成するいわゆるスキャン業者2社に対し、行為差し止めを求める訴えを東京地方裁判所に提起した。漫画や書籍のスキャンは、インターネット上で「自炊」とも言われるが、原告らは「自炊は代行し得るものなのか疑問」として、「自炊代行業者」ではなく「スキャン業者」と呼んでいる。

デジャヴ。これ程までに愚かしいデジャヴがあろうとは。

重力に従い上流から下流に流れる川は、その流れを堰き止めようとしても堰き止めきれるものではありません。その堰は多くの場合徒労に終わります。
ユーザのニーズに真っ向から反対し規制を設けたり求めたりするのも同様の行為と言えます。その多くは徒労にすぎません。

例えば地デジ。
コンテンツの不正コピーを防止する目的で採用された「コピー・ワンス」「ダビング10」等のコピーガード技術。不正コピーを恐れるあまり録画したコンテンツのダビングに制限がかけられるのはもちろんですが、例えばパソコンにチューナーを接続して地デジを鑑賞しようとする時「外部接続のスピーカーが接続されていると見られない」「Evernoteを起動していると見られない」などのヒドい不利益をユーザに強います。
しかし、これで本当にコピーが防げるのかと言えばそうでもない。「地デジ コピー」というキーワードでGoogle検索したところ、現時点で1,000万件以上のウェブサイトがヒットしました。ユーザに不利益を強いても目的が果たせないとは。
今はまだアナログから地デジへの移行が概ね完了しほっと胸をなで下ろしているところでしょうが、NetflixやHuluなどの動画配信サービスにその地位を奪われる日も遠くないと思います。

もしくはCCCD。
パソコンを用いた音楽のデジタルコピーとそれに伴う違法コピーの蔓延という状況に対抗すべく、約10年前に音楽業界が採用した技術。
しかし「パソコンで音楽を視聴する」というiMacの登場以降当たり前になりつつあったライフスタイルを否定し、「その仕組上必然的に音質が悪化する」「プレイヤーを破壊する」という本末転倒な副作用故にアーティスト側からも批判を浴びました。結果、CCCDを最も推進した会社の売上は20%減少、業界全体でもCD販売の不振というそれこそ本末転倒な結果に終わりました。
ちなみに、2003年のiTunes Music Storeという「合法的かつ適正価格でデジタル音源を購入する手段」が提供されて以降、その相関関係はさておき違法コピー率は年々減少しており、それと同時にiTunes Storeでは既に50億曲以上が販売されています。

逆に、iTunes Storeのように「ニーズに対する規制」を止め、むしろそれを合法化して成功した事例は他にも見られます。

例えばYouTubeを取り巻く人々。
2005年末にスタートしたこの動画共有サービスはサービス開始直後の2006年の段階から違法コンテンツのアップロードが問題になっていました。当初YouTube側も問題視し(もちろん今でも問題視しているでしょうが)、違法コンテンツの削除及びそのアップロードを制限するための措置、規制を行いました。しかしその後YouTubeというサービスが世界的に市民権を得て新たなメディアとしての地位を確立すると、むしろYouTubeを活用する動きが出てきました。その最たる例が2008年のJASRACとの提携。JASRACはYouTubeへのコンテンツアップロードを規制するのではなく、むしろそれを認めて課金することで新たな収入源にしました。

もしくはファイル共有サービス。
Eメールのファイル添付は添付できるファイル容量に制限がある場合が多く、その場合はEメール以外の手段を利用せねばなりません。ここで人気になったのが「宅ふぁいる便」などのファイル共有サービスですが、一部の会社はこれが機密情報の漏洩につながるとして規制していました。しかし、大容量のファイルを送信しなければならないシチュエーションは減らないため、ある会社は機密情報の漏洩を防ぐため自社でファイル共有サービスを始めました。

どの失敗事例や成功事例においても、ユーザはただただよりよい環境、手段、方法でのコンテンツ鑑賞を望んだだけです。
ユーザはコンテンツを求めていた。ただそれが提供されなかった。このため自分でその手段を見つけ出した。
ユーザが求めるのはコンテンツであり、そのコンテンツを提供するための媒体は問いません。一部「アナログレコードの音の温かみが好き」など特定の媒体に対する嗜好はありますが、多くの場合はコンテンツそれ自体を求めます。デジタル配信されずCDの販売量も少ないMichael Jackson / In The ClosetのシングルCDに収録されているリミックスバージョンを聴く手段が「ヤフオクで6000円払って買う」のと「どこからかDLしてくる」の2つしかない状況で、前者を選ぶ人どれだけいるのでしょうか。

ああいう形で盗んでいる人の80パーセントはやりたくてやっているわけではなく、合法的なやり方がないからやってるんだ。だから我々は「それに代わる合法的なやり方を作ろう」と考えた。そうすればみんなが喜ぶ。音楽会社も喜ぶ。アーティストも喜ぶ。アップルに
とってもうれしい。ユーザーにとってもだ。優れたサービスが使えて、しかも泥棒にならずにすむのだから

差し出がましいようですが、彼らはスティーブ・ジョブズの自伝を読んでからもう一度犯人探しをやり直した方がいいのではないでしょうか。


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