ハーバード流交渉術 (Roger Fisher & William Ury)

最近仕事をする上で色んな能力、知識の不足を痛感する日々です。それはIT、システムに関する基礎的なノウハウだったりPMの経験、会計の知識などなど。
その中の一つに「交渉術」があります。

「交渉」と聞くと映画のワンシーンのように犯罪者と交渉人の手に汗握る駆け引き!的なものを想像してしまいがちですが、交渉というシチュエーションは映画のワンシーンやビジネスの場だけに限られるものではなく、意外に生活の中に数多く見られます。
例えば、自分が住んでいる賃貸住宅の家賃交渉や、もしくは旦那さんが奥さんに頼むお小遣いの増額も交渉と言えます。僕の最近の経験の中でも、お客様との価格交渉や開発チームとの役割分担の議論などの仕事関連、またホテルの長期宿泊の条件交渉やアパート入居時の家具に関する交渉など生活関連が挙げられます。ジャカルタでは時々メーターを使わないタクシーがいて彼らは料金をふっかけてくるので、彼らとの価格交渉は日常茶飯事です。

しかし、僕はもともと交渉が苦手です。そしてそれはまだ克服できていない。
持ち前の他人の視線や評価に一喜一憂してしまう気質、短気で辛抱強さが足りない気性、じっくりモノを考えるよりもその場を収束させる手段を考えてしまう思考。これらの性格故に、自分が許容できる限りで相手の要求を最大限許容し、それをもって場を収束させようとしてしまうことが多い。

この方法は利害の影響範囲が自分個人に収まる限りであれば有効かもしれません。損をしたとしても被害を被るのは自分だけで他人に迷惑をかけるわけではないので。
社内での開発チームとの役割分担や、ホテルとの条件交渉はその類です。前者であれば「僕があれもやります、これもやります」ということで場が収まる。後は僕が生産性を上げるだけでいい。後者であれば僕が納得すればそれで終わり。この場合は、交渉が早く決着すること、こちらが譲歩することで相手に「貸し」を作れる(かもしれない)ことが利点として挙げられます。
しかし、交渉の影響が自分個人の枠を超える場合、「交渉の敗北」の責任は大きい。最も典型的な例は営業が顧客と行う価格折衝です。
顧客が強硬に値下げを要求しその交渉に出口が見えない場合、早く切り上げたいがために往々にして「うーん、わかりました。じゃあもう5%だけですよ……」なんてことをつい言ってしまいがちです。このような譲歩は無意味に自社の利益を5%減らすだけでなく、場合によっては「頼めば値下げしてくれる」との印象を与え次回からさらに強硬に値下げを要求されかねません。そして利益の低下という結果の影響は自分のみならず全社に及ぶ。場合によっては「あの会社はすぐ値下げする」なんていう風評がより自社の立場を弱くするかもしれません。

さて、本書は上記のような人々が(というか僕が)陥りがちな交渉のドツボに陥らないためのガイドブック。「ハーバード流」なんて言葉を聞くとつい「中身がないから看板で本を売ろうとしてるな」なんて邪推してしまいますが、本書の場合はライフネット生命副社長の岩瀬大輔さんがオススメしつつ訳まで担当されているので中身の信頼性は折り紙つき。まあそれでなくとも本書自体そもそも結構な古典ではありますが。

本書によると、交渉の際、人は僕のような「譲歩ベースで交渉をまとめようとするソフト型戦略」か、もしくは893屋さんのように強硬に自分の主張を押し通す「ハード型戦略」のどちらかを採ることが多いそうです。しかしソフト型戦略はどうあがいてもハード型戦略には勝てないし、ハード型戦略は往々にして相手との長期的友好関係を崩してしまう諸刃の剣になりかねない。要するにどっちもどっちであると。そこで本書が提案するのが「ハーバード型交渉術」。それは人や問題ではなく「双方の利益」に着目して交渉を進めるという手法です。

交渉には理由が必要です。
営業としてなぜ値下げをするのか、営業としてなぜ値下げできないのか。
どちらも理由がなければそれは「頼めば無闇に値下げをする営業」になるし、「びた一文値下げせず全く顧客の期待に応えようとしない営業」になってしまいます。
その一方で、
「予算がこれだけ、最低限この部品が必要ならば、こっちの不急な部品は次回にして今回は値段をおさえましょう」
「次の案件もウチに頼んでくださるのならば今回は値下げしましょう」
このような妥当な理由があれば、上記のように実質的に値下げをせず顧客の要望を満たすことも可能だし、値下げをしたとしても無闇にそれ以上押し込まれることもありません。逆に値下げ要求を拒否することだって可能になります。
交渉において、このような理由が依拠するのが利益です。自分と相手、双方の利益を把握することで、実は主要かつ唯一の論点だと思っていた「価格」意外にも論点があることに気づく。それによって双方が利益を得る落とし所を見つけることができる。

上記のような利益の把握はとても難しい。相手の利益もさることながら自分の利益でさえ理解するのはなかなか骨の折れる作業です。しかし、それができるとどのような場合においても交渉は非常にラクになる。その意味で、やはり重要なのは「交渉の設計」、つまり双方の利益の把握と譲歩できる条件と死守すべき条件のボーダーラインの設定を、どの交渉の前にも時間を掛けて行うべきだと思います。僕は交渉前に設計をいなかったため、安易に譲歩してしまったり頑なな姿勢をとってしまったり唐突なオファーに当惑してしまったりしていました。

冒頭でも述べた通り「交渉」は実はごく身近なもの。ビジネスシーンはもちろん家庭内の話し合いも交渉の一つ。人生を生きていく上で、一度本書に目を通しておくのは悪くないと思います。

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Comments

“ハーバード流交渉術 (Roger Fisher & William Ury)” への1件のコメント

  1. […] 見つけ出すかには骨を折った。 違う見方をすれば、このエントリー(「ハーバード流交渉術 (Roger Fisher & William Ury)」)で学んだ内容を実践する経験を多く得られたことで、交渉術のス […]

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